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「どうぞ入って‥‥‥、え?」 「え、七瀬くん?」 俺の目の前には、楽器を背負った依織が俺と同じように驚いた顔をして立っていた。 「お前達2人と同じクラスなんだろ? 五十嵐 依織。仲良くしろよー」 「へー、ベース弾ける子って五十嵐くんのことだったんだ。初耳」 「ほら、ちゃんと連れてきただろ? だから俺に謝って。全力で謝って!」 「だから、それは別のことって言ってるじゃん」 後ろからまたぺちゃくちゃと話す声が聞こえてくるが、今の俺はそんなことどうでもよかった。 「ほら、依織。ちゃんといるだろ? お前が探してた——」 唖然とする俺の横をすり抜け、依織は何かを口にしかけた暁の口を強制的に押さえた。 「むふっ!」 「お前はちょっと黙ってて。それ以上は何も言うな」 暁がコクコクと頷くと、やっと依織は手を離した。 「依織、お前帰宅部だったんじゃなかったっけ?」 「おー七瀬くん、よく知ってるね。だけどこいつが軽音入れ入れってうるさいから‥‥」 「は!? 俺そんなこと——ムグッ」 今度は埜明が暁の腹に一発入れた。 悶絶している暁を横目に、俺は依織に近づいた。 「じゃあ別に入りたくて来たわけではないと」 「いや、今気が変わった」 「は?」 「七瀬くんがいるんでしょ? だったら入る」 俺がいるから? 少し照れ臭くなって、依織に背を向け入部届けの紙を取りに行く。 「はるくん。今の聞いてた? 『七瀬くんがいるから』だって! 部活ラブだよ!」 こそっと埜明が俺に耳打ちしてきた。 「う、うるさいなー。部活でそんなことするかボケ」 「いつもどんな練習してるの? やっぱり七瀬くんはギター? 一回3人の演奏聴いてみたいなー」 「週5の部活で平日だけ。基本個人で、合わせたくなったら合わせるみたいな緩い部活。俺はギター」 「ねぇ、演奏聴かせてよ」 「2人に聞け」 いつものように軽くあしらっていると、埜明と暁が不思議そうにこちらを見ていた。 「恋人だっていうのにあんまり前と変わらんなぁ」 「ねぇ、あっくんモテるんだから普通はどういう風にいちゃつくのかお手本見せて」 「誰がいちゃつくだバカ。埜明こそモテるじゃんかよ」 その時、グッと肩を引き寄せられた。 「えーこんなに僕がいちゃついているのにまだ足りないの?」 ドン 「ゴフッ‥‥痛い、鼻に入った、鼻に入ったって」 「入れたんだよ。ふざけるな」 「そういえば、七瀬くんボーカルもやってたよね?」 「おい、話を聞け」 飄々とした態度であまり反省していない依織にもう一発入れてやろうと拳を握りしめた時、俺たちの間に埜明が入った。 「はいはい、そこまで。せっかく五十嵐くんが入ってくれるんだから、歓迎会でもしようよ。そこで一曲演奏すれば俺たちの実力もわかるでしょ?」 「埜明の意見に賛成。あ、ちなみに俺はドラムね。そういうことなら準備するか」 「俺はキーボード。本当にベースがいなくて大変だったから、五十嵐くんが入ってくれて嬉しいよ。ほら、はるくんも準備して」 埜明に背中を押され、渋々楽器の準備をする。 「へぇー七瀬くん。テレキャスター使ってるんだね。それもFenderの」 「うん。この音に惚れてギター始めたから。ずっと使ってる」 「いつからやってるの?」 「小学五年から。好きなアーティストがテレキャス使ってて、それがきっかけ」 話をしているうちに、他の2人は準備を終えたようだった。 端のほうにあるテーブルにはいつの間にか何本かの飲み物と紙コップが。 本格的にやるつもりか。 「それでは、依織の入部を記念しまして、かんぱーい!」 「「「乾杯!」」」

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