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「そういえば、軽音部ってこんなにメンバー少ないの?」
「そこはあんまり聞かないで。はるくんも部長として色々頑張ってるんだけど、一応所属しているっていう人ばっかりだから」
机の上に座って脚をぶらぶらさせながら、埜明は大きく溜息をついた。
最初からこんなにメンバーが少なかったわけではない。でも、高校二年生って意外と複雑で、音楽なんて簡単に諦められるものだから。
折角入った一人の一年生も、親に反対されてもう来ていない。
深く考え込んでいると、ヒョコッと依織が俺の顔を覗き込んだ。
「七瀬くん。僕が軽音に入って、嬉しい?」
「甘えんな。俺を喜ばせたかったらサボりをやめてしっかり授業を受けろ。そしてちゃんと部活に参加しろ。ナメてんのか」
「あらま、手厳しー」
ケラケラと笑う依織の頬をつつく。
「まぁ、その第一歩ということで評価してあげます」
依織の顔がぱあ!っと明るくなった。
「じゃあ陽樹、そろそろやりますか」
「そうだな。曲はどうする? 依織はなんか希望があるか?」
うーん、と顎に手をつき悩む依織。
「あ! あれがいい」
パンっと手を打ち、依織が声を上げた。
「あれって?」
「去年の文化祭でやってた曲。初めて聴いたけど、あれは感動した」
ぶわっと顔が熱くなる。
暁がこちらをみてニヤリと笑った。
「あぁ、『エフェメラ』か。あれはいい曲だよな。なぁ、蜂谷?」
「う、うん」
埜明も何かを察したのか、ニコリと笑って頷いた。
「へぇー、『エフェメラ』っていうんだ。また調べてみようかな」
「残念! その曲は調べても無駄だよ。だって‥‥‥まぁ、それは演奏が終わってからでいっか。陽樹、いけるよな?」
否定できない状況に渋々頷く。
「えー、ただ今から演奏させていただくのは『エフェメラ』という曲でございます。
ギターボーカル七瀬陽樹、ドラム九重暁、キーボード蜂谷埜明。どうぞお聞きください」
暁の紹介が終わり、いよいよ曲が始まる。
心臓がありえないほど跳ねてる。
この焦らすような緊張感が俺は好きだ。
曲の入りは俺のボーカルソロで始まる。
高鳴る鼓動を押さえつけるように、俺は思いっきり息を吸って歌い始めた。
これは俺を歌った曲。
何もできなかった頃の、俺の姿見。
何かをできるようになった、俺の足跡。
俺の夢への、第一歩。
曲の演奏が終わると同時にチャイムが鳴った。
「ということで、依織。入部おめでとう。明日からまたよろしくな」
「あぁ、よろしく。暁はまた練習に付き合えよ」
早々と片付けをし、その日はお開きになった。
昇降口まで4人でぺちゃくちゃ話していたが、暁と埜明が寄り道をするそうで、俺は依織と二人で帰路についた。
だけど、なかなか会話が弾まない。
無言で繋がれた手が痛々しい。
曲が終わってからどこか上の空の依織。
「な、なぁ、依織、今日時間ある? よかったらちょっと行きたいとこがあって‥‥」
「あ、うん。大丈夫」
すぐに終わってしまう会話。
もっとなんかあるだろ! 必死に話題を振る俺の身を考えろよ!
なんだか少し寂しくなり、声もかけづらい。
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