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無言で歩くこと約10分。俺の家から徒歩5分の距離にある二階建ての建物についた。
表札には『一宮』の書かれている。
「ちょっと入れよ。見せたいものがあるんだ」
「うん」
俺は持っていたスペアキーを使って扉を開けた。
一回はそのままスルーして、階段を上り二階へと行く。
廊下に出て、手前にある重い扉を開くとそこには小さなスタジオがあった。
「えー! すげー。ここって何かの練習スタジオ? ちゃんといいアンプ使ってる。防音関係もしっかりしてそう」
「ここ、俺の祖父の家なんだ。祖父もバンド組んでて、よくここで練習したらしい。今は足腰が悪くて俺の家に住んでるから、この家を貸してもらってるんだ」
まじまじと部屋を見渡す依織。
「もう一つ隣に部屋があったろ? 隣も防音室になってて、あっちにはピアノが置いてあるんだ」
依織の肩がピクリと動いた。
「あのさ、前に依織、音楽の授業の時ピアノ弾いてただろ? 本当にあの演奏はうまかったし、依織がピアノを弾くのが好きなんだなって知った」
依織に一歩近づき手を掴む。
「もしよかったら、好きな時に来て、弾いていいよ。あの、いいよっていうか、その‥‥俺の前でもう一度、弾いてくれたらなって」
何も言わない依織。
帰り際落ち込んでいるように見えたから急遽ここへ連れてきたんだけど、間違いだった?
俯いている顔を覗き込む。
その時ギュっと掴んでいた手を引かれ、抱きしめられた。
「依織‥‥」
依織の体から少し震えている。俺の耳元で溜息をつく。
「七瀬くんは意地悪」
「へ? なんで‥‥」
「僕が怒ってるか落ち込んでると思って連れてきてくれたんだろうけど、それは違うんだよ」
俺を抱きしめる力が強くなる。
「じゃあ、なんでそんな態度なんだよ。こっちはずっとヒヤヒヤしてたのに」
「ハハッ、七瀬くん心配してくれたの? 理由はね、僕が君を好きになった理由に関わるかな?」
あ、そういえば、お互いなんで好きになったのかなんて聞いてなかった。
「だからその理由はまた今度ね。こんな密室に呼んでおいて、何かしなきゃ損だよ」
くいっと顎を上げられ、視線が合う。
「今度は、口にしていい?」
顔が徐々に熱くなっていく。
「うん」
その言葉と同時に依織の唇が重なってきた。
「‥‥んんっ」
甘く痺れるようなキス。
指先まで力が抜けるような初めての感覚。
後頭部を引き寄せられ、貪るように求められる。
角度を変え、何度もキスされる。
触れられているところが熱い。唇が離れたときの一瞬、依織の吐息を聞くだけで、目眩がしそう。
「七瀬くん、口、あけて?」
頬を撫でられ、欲情した目に吸い込まれそうになる。
だけど、やられっぱなしは性に合わない。
「ダメ」
えっ、と驚いた声を上げる依織。
「なんでもかんでも依織に任せるのはやだ。今日はここまで。つ、次は、俺からもっといいことしてやるから‥‥」
恥ずかしくて依織の胸に頭を預けた。
上からは依織の溜息が聞こえる。
「お預けされたってことでいいかな?」
「ち、違う!」
「まぁ、魅力的な提案をしてくれたんだから、ここは男として我慢しますか」
おでこにチュっとキスをされ、俺たちはもう一度抱き合った。
第2話 ロックな話 end
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