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俺から誰かにキスするのは初めて。
あんなにイキって俺からなんて言ったけど、正直めちゃくちゃ恥ずかしい。
しかも、もっといいことって‥‥本当にあの時の自分を責めたい。
普通のキスで誤魔化せないだろうか。
もしかしたら依織もそれで満足するかもだし。
ゆっくり依織に近づいていく。
なんだよ、すました顔しちゃってさ。
俺はこんなに、ドキドキしてるのに。
片手を依織の頬にあて、俺は唇を重ねた。
「‥‥ん」
そっと触れているだけのキス。
それでも、恥ずかしさのあまり顔が熱い。
唇を離す。
まだ目を閉じたままの依織。
「い、依織。終わったよ」
パチっと依織が目を開ける。だけど、やっぱりどこか不満そうで‥‥
「七瀬くんの『いいこと』ってただのキス? それとも怖気付いたの?」
「そ、それは‥‥」
依織の顔が見れず、俯く。
何で猫と遊んでただけでこんな目に合わなきゃいけないんだよ。
恋愛経験があるお前と違って俺はほとんど皆無なんだよ。
依織の溜息が聞こえる。
「別にキスしてやったんだからそれでいいだろ? なんだよ、ただのキスって。俺はお前と違って涼しい顔でやれないの。··········俺、帰る」
不穏な雰囲気にいたたまれなくなり、帰ろうとする。
「七瀬くん」
背後から呼ぶ声が聞こえるが、無視。
「ねぇ、七瀬くん!」
右手を掴まれ、そのまま引き寄せられた。
「は、離せよ。俺帰るんだけど?」
「謝るから、七瀬くん。僕が悪いから、行かないで」
泣きそうな声に思わず後ろを振り返る。
叱られた子供みたいにしゅんとしている依織。
なんだか、こっちが申し訳なくなってくる。
「俺も、ごめん。嫌な態度とって」
依織に一歩近づく。
勇気を出せ。俺が言い出したんだ。
やっぱり男として嘘はつきたくない。
左手で依織の胸元を掴み、引き寄せた。
「‥‥、ん」
まずは触れるだけのキス。
俺より身長があるから、こうでもしないとキスができない。
依織は最初、驚いたように変な声をあげていたが、すぐに俺の意図に気付いて、腰に手を回してきた。
「ん、はぁ‥‥」
唇を離すと、依織と目があった。
「もっといいこと、してくれる?」
期待に満ちた目で見つめられ、心臓がバクバクと激しく音を立てる。
「く、口、開けろよ」
ぼそっと小さな声で呟くと、依織が小さく唇を開いた。
唇を重ね、舌を伸ばす。
ディープなんてするのは初めて。
依織の舌をつつき、唇の角度を何度も変える。
やっぱり何か物足りない。
なにか、義務的な行動をしてるような気分になる。
恥ずかしくて目を開けられないから、もしかしたら依織は物足りなそうな顔をしているかも。
急に自信がなくなり、そっと唇を離した。
顔を見たくなくて、俯く。
「七瀬くん。誰かとこんなキスしたことある?」
「な、ないよ。お前が、初めて‥‥」
やっぱり下手だったのかな?
「じゃあ‥‥」
グッと顎をあげられ、依織にまじまじと顔を見られる。
「次は僕がするね」
「へ? ‥‥‥どういう、んん!」
依織と唇が重なる。
自分からしたときとは全然違う。
甘くて、とろけそうな快感。
そっと入ってきた舌になす術もなく、口内を蹂躙される。
全身の力が抜けて、今にも倒れてしまいそう。
「い、いお、り。ん、ぁ、」
段々息をするのが苦しくなり、依織の肩を押し、離れた。
息を切らす俺に対し、依織はすまし顔。
「七瀬くん。もっかいしていい?」
「だ、ダメ。もうダメ」
「七瀬くんの声可愛い。僕に好きなようにされて、必死に受け入れようとするとことか」
体温が一気に上がる。
「ば、バカ! もうしない。絶対しない。帰る!」
これ以上醜態を晒したくなくて、足早にその場を後にする。
「七瀬くん!」
遠くから依織に呼ばれ、振り返る。
「大好きだよ。また明日ね」
そのあと俺はずっと赤面しながら家に帰った。
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