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第1話
両親の離婚を機にこの高校に転校して来たのが高校二年の春。
それから一年が経ち三年になった僕は来年卒業を迎える。
そんな中途半端な時期に転校してきた割には、上手くクラスに馴染んだ方だと思う。
「投票の結果、うちのクラスの学級委員長は菫谷 。菫谷 優 に決定」
担任の南 先生が僕の名前を読み上げると教室内に一斉に拍手が湧き上がる。
「菫谷、一年間よろしくな」
先生が僕の席に歩み寄り、肩にポンッと手を置くとそう言いながら柔らかな笑顔を向けた。
みんなから見た僕への評価は自己評価よりも高いらしく、『菫谷くんは優しいよね』『菫谷は真面目過ぎるんだよ』そう言われることが多い。
うちは小さい時から転勤家族で転校も多かった。
だから転校の度に一から友達を作らなきゃならなく、そんな環境にいつしか当たり障りのない人間関係を築く術を身につけていた。
協調性や順応性があるわけじゃない、あるフリを装っているだけ。
本当の自分はもっと我儘で自分本意だ。
だから、他人が思うほど優しくもなければ真面目でもない。
今だって、学級委員長に選ばれたらもっと先生に近づけるんじゃないか。
先生はもっと僕を見てくれるんじゃないか、そんなことばかり考えている。
もっともっとと欲は増えるばかりで、そんな本当の僕を先生が知ったら嫌われてしまうかもしれない……
そんなくだらないことを考えていると再び先生が僕を呼んだ。
「早速だけど菫谷、ホームルーム後、頼みたい用事があるから美術準備室に来てくれ」
美術の先生である南先生は授業以外は大体準備室で絵を描いて、いつも真っ白いワイシャツに落ち着いた色のネクタイを締め、その上に白衣を羽織っている。
もうすぐ三十路だという噂を聞いたことがあるからまだ二十代なんだろうけど、見た目は童顔でもっと若く見える。
それに、いつも明るくて物腰柔らかな口調と面倒見がいい性格な所があり、生徒からも結構人気があって……
『先生て彼女いるのかな……』
『前に誰かが聞いた時はぐらかされたって聞いたよ』
たまに女子がこんな会話をしてるのを耳にしては、胸がザワつくのを必死に誤魔化していた。
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