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第3話
それから暫くは言われた通り先生の部屋を尋ねることはしなかった。
けれど、ある土曜日、父親から夕飯はいらないと急に連絡が来て、一人で食べ切れる量ではないなと思い倦ねている時に先生のことが脳裏を過ぎった。
(緊急事態だし、よりによって今日鍋作っちゃったし……いいよな)
とりあえず玄関を出て、先生の部屋のインターホンを押すと「はい」とすぐに声がして、事情を説明すると玄関のドアを開けてくれた。
それに今日は何故か「なら一緒に食べないか」と言われ僕は先生の部屋で一緒に夕飯を食べることに。
「今日のことは、誰にも内緒だからな。一応は先生と生徒が学校以外で会うことは禁止されてるんだから」
「分かってます、誰にも言いませんよ。すき焼き冷めちゃうから早く食べましょう」
すき焼きをつつきながら学校の事やお互いのプライベートのこと、学校では到底話すことのない話題に、僕も先生も次第に饒舌になっていった。
「菫谷は彼女とかいないのか?」
それに大体はこういう話の流れになるのはお約束なわけで……
「……いませんよ」
そう答えると、先生に気づかれないように小さくため息をついた。
「え⁈ そうなの?」
「いると思ってたんですか?」
「だってお前、結構イケメンだし成績だっていい、それに学級委員長……そりゃモテるだろ」
「いや、そんなことないですよ」
確かに告白されたことはある。
でも好きな人がいるからといつも断ってきた。
目の前にいる先生がその好きな人だと言えたらどんなに楽か……
「好きな奴とかは? いないのかよ」
だから案の定聞かれた質問に、先生への伝えることの出来ない想いを強く込めながら「いる」と一言答えた。
初めて先生を意識したのは一面のすみれ畑を見つめ、佇んでいる姿を見かけた今年の春。
いつも明るい先生しか目にしたことがなかった僕にはあの日見た表情は衝撃的で、それからその日を境に先生のことを考える時間が日に日に増え、それはいつしか恋心へと変化した。
そしてこうして先生を目の前にしている今もその気持ちは募るばかりで、そんな想いからなのか僕にもずっと気になっていることがある。
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