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第4話
恋人はいるのか、あの日何故あんなに哀しそうだったのか……
なんとなくその二つはイコールで繋がるんじゃないかと思っている僕は、理由もずっと聞けないままだった。だから、勢いで聞くなら今だ。
そんな思いから、僕はずっと気になっていたことを口にした。
「先生こそ、恋人とか……いないんですか?」
数秒の間の後、その質問の答えを聞いた僕は持っていた箸を落としそうになる。
「俺さ、もうずっと一人でいようって決めてたんだよ。菫谷にこんなこと言うのおかしいんだけどさ……」
そう視線を外しながら告げると、先生は自分の過去を静かに語り出した。
その過去というのは、高校時代に付き合ってた人と喧嘩別れして、そのあとその人は交通事故で帰らぬ人になってしまったらしく……
だからあの時、喧嘩別れしてしまったのが今でも忘れることが出来ずにいるんだと……淡々と、でも寂しそうに先生は話してくれた。
その口調から、きっと先生はその人のことをまだ好きなのだろう。
「それにさ、俺の恋人って男だったんだ」
「……男」
「意味、分かるか?」
「……は、はい」
「びっくりしたろ。……でもなんだろな、菫谷には自然と何でも話せるんだよな」
苦笑いを浮かべながらそう言うとグラスに入った水を一気に飲み干し、ゆっくりとそれをテーブルに置くと先生はまた苦笑いを浮かべた。
(何でも話せるってどういう意味なんだろう)
「あの……」
「ごめんな、変な話して」
「いや、違くて」
少しは僕のことを特別に思ってくれているのだろうか。
だけど、そんな意味で言ったわけじゃないかもしれない。
不謹慎かもしれないけど、それでも先生の恋愛対象が男だと知って少しだけ気持ちが上がった。
もしかしたら……いや、でもそんな上手くいくはずはない。
現に、きっと先生は元恋人をまだ忘れていない。
先生の何気ない一言にこれほどまでに一喜一憂してしまうなんて……
「菫谷?」
向かい側に座る先生が、そんな僕を心配そうに見つめている。
そしてもう一度静かに名前を呼ばれると「なんでもないです」と、出来るだけ冷静さを保ちながら切り返した。
僕の恋愛対象も男の人で、僕の好きな人も男の人。
……それは先生なんです。
そう喉のここまで出かかったのを必死に飲み込む。
それから無理矢理に話題をそらして、その後は多少の気まずさはあったものの、なんとか片付けまで済ませると先生の部屋を後にした。
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