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第7話
準備室で先生からキスをされたあの日から、僕と先生が必要以上に話すことはなくなった。
多分、先生は僕の気持ちに気づいている。
それに、きっと先生も僕に好意を寄せてくれている。
「卒業式の後に全てを話す」と言ってくれた言葉を信じながら、先生への想いを胸にしまったまま、まるで秘密を共有するかのようにお互いに生徒と教師という仮面を付けたまま日常を過ごした。
その後も何事もなく毎日が過ぎ、気づけば年が明け、推薦ですでに大学も決まった僕は明日の卒業式を待つだけに……
それなのに、卒業式当日思いもよらないことが起きた。
「皆さん、卒業おめでとうございます。本来ならここに南先生が立って皆さんを見送らないとならないのですが……」
式が始まる前、教壇に立って申し訳なさそうに謝罪する教頭先生をクラスの誰もが唖然とした表情で見つめていた。
昨日まで先生は普通に学校にいた……なのに、先生は卒業式に来ない。
その事実を受け止められないまま、話は続けられた。
「実は本当なら皆さんの卒業式の後に旅立つはずだったんですが、どうしても先方のスケジュールの都合で今日に変更になってしまったのです。南先生もギリギリまで交渉していたのですが、どうしても無理で……なので、見送れなくて申し訳ないと伝えて欲しいと言われました」
さっきまで多少ざわついていた教室はいつの間にか静まり返り、クラス全員が教頭先生の話を真剣に聞いてる。
話によると、海外の有名な専門家に先生の絵が評価されたとかで、僕達の卒業式後に休職して向こうで更に絵の勉強をすることになっていたらしい。
だけど、それがちょっと早まってしまったのだとか。
「……それと、直接卒業証書を渡せない代わりに皆さんに手紙を渡して欲しいと、先生からクラス全員分の手紙を託されたので今から一人ずつ渡します」
それから教頭先生がクラス一人ずつの名前を呼び、まるでそれが卒業証書を渡すかのように南先生からの手紙を渡していく。
渡されたその手紙を読みながら涙を流しているクラスメイト達を見ていると、やっぱり先生はみんなから慕われていたんだなぁと実感すると同時に僕の胸は苦しくなる。
自分だけには何か言ってくれてもよかったんじゃないか。
だけどそんなことは自分が都合よく思っていただけで、先生の中で僕の存在はそこまでには値しないものだったんじゃないか。
そんな混乱状態の中、いつの間にか自分の名前を何回も呼ばれていることに気づき、慌てて席を立つ。
そして教壇に向かうと教頭先生から手紙を受け取った。
到底すぐに開封する気になれなかった僕は、式の後誰もいなくなった教室でそれを開けることにした。
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