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第8話
先生の言葉を信じ、ずっと待ち、やっと卒業式を迎えられたのに先生はいない。
あるのはこの手紙だけ。
式の最中も、最後のホームルーム中も「どうして」と言う思いが頭の中を支配していた。
だから、ここに全てが書かれているとしたら……そう思うとなかなか開封出来ないでいた。
(いつまでもこうしているわけにはいかないよな……)
分かっているのに手が震える。
それでも、意を決して封を切って中の便箋らしきものを取り出すと……中には確かに先生の字で数行のメッセージが。
それは、卒業を祝う言葉でもなく、謝罪の言葉でもなく、そこには意外なことが書かれていた。
それから僕はその手紙の通りにそこに出向くと、書いてある通りの行動をした。
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カチャッと無機質な音が響きドアを開けるとゆっくりと中に足を踏み入れる。
かつて一度だけ訪れた先生の部屋。懐かしさが広がるその空間にただ一人佇んでいると、視界は涙で徐々に滲んでいく。
あの手紙に書かれていたこと、それは……美術準備室のデスクの引き出しの奥に自宅マンションの鍵がしまってあるから、それを使って部屋に行って欲しいという内容だった。
書いてあった通りに部屋を訪れた僕の目に飛び込んできたのは……
準備室で描きかけだったあの大きなキャンバスが玄関を上がったフローリングの床に立て掛けられている、そんな光景だった。
あの時見たよりも絵は描き加えられていて、そこにはすみれ畑の中に佇む二人の人物が描かれ、その人物は笑い合ってるような雰囲気がした。
そして、右下に視線を移すと何かが英語で書かれていて……
(サイン……?)
手を伸ばしそこを指先でなぞるようにして見つめていると、あることに気づいた。
そこには、先生のサインとその横に『for dearest yu……』と記されている。
(これ……)
そして絵と一緒に置かれていた封筒。
それを手に取ると、学校で貰ったものよりも分厚くずっしりと重たい。
先生の想いがこの中に詰まっている……そう思ったら急に胸の奥底から熱いものが再び込み上げてきて、気づけば涙は頬を伝っていた。
震える手で封がされてない封筒の中から便箋の束を取り出し、そのままゆっくりとそれを開く。すると、便箋の一番上に『菫谷へ 』と見覚えのある字で僕の名前が記されていた。
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