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ホストクラブ☆怒羅権(2/3)

「エリオットちゃん、エスパーの仕掛けに気づくの早いNE♡ 賢いNE♡ うぇーい!」  どこから取り出したのか、夜店で売っているぴかぴか光るサングラスをかけて踊り始めたので、僕はほうきに手を伸ばした。 「鬱陶しい。僕、やっぱり登山口の売店で火山パイ買う」  立ち上がろうとした僕の両肩をガルドは押さえ、シャンパングラスを取り出した。 「まあまあまあまあ、そう焦って出て行かなくても。まずはエリオットちゃんに乾杯しようZE☆ うぇーい!」  地熱で温かい土地だから仕方ないのかもだけど、グラスもシャンパンも微妙にぬるい。それでも、黒いラベルの高級シャンパンはさすがの美味しさで、僕は一気に飲み干した。  シャンパンで刺激された僕のおなかがぐうっと鳴る。ガルドはすぐに立ち上がり、大きなしっぽを左右に振りながら走っていった。 「今、チャームを持ってくから、ゆっくりしてて」  エプロンをつけ、両手にミトンをはめたガルドが、大きなせいろを運んできた。中にはドラゴンまんじゅうが湯気を立てている。さらには蒸した肉の塊と色鮮やかな野菜、真っ黒な温泉ゆで玉子まで並べられた。 「はい、お待たせ。チャームでーす!」 「チャームって、小皿に入ったナッツとかチョコレートとかじゃないの?」 「ウチのチャームはこれ。食べてみて。ねえ、食べてみて!」  隣に座ったガルドに、期待と不安の入り混じった目を向けられながら、僕はドラゴンまんじゅうを口にした。ふかふかの白いパンを噛むと、甘辛く味付けされた肉がごろごろ出てくる。 「どう? どう?」 「うん。おいしいんじゃない? お肉が甘辛くてジューシーで、パンのきめが細かくて、一緒に食べるととってもおいしい」  ガルドはミトンをつけた手でばふばふ拍手をしながらドラゴンの羽を動かし、店内を飛びまわった。 「ひゃっほー! よかったー! 今日はお客さんが少なくて……というか毎日誰もいないんだけどさ。余っちゃうともったいないから、いっぱい食べてね!」  僕は料理を頬張り、咀嚼しながらうなずく。シャンパンのボトルが空になると、ガルドはすぐバーカウンターに立った。 「エリオットちゃん、次は何を飲む? 飲み放題だから、何でも言って」 「じゃ、ハイボール」 「ハイボールいただきましたぁ!」  ガルドはスプーンの背を使って丁寧にウィスキーを注ぎ、炭酸が抜けないよう静かに混ぜたハイボールを手に、戻ってくる。 「エリオット様からハイボールのご注文をいただきました! サンキュー、グラッチェ、ありがとね! グイッと飲んで、こいこいこいこい! いえーい!」  さらに口から火を吐く演出までついたコールに合わせ、コールに合わせてハイボールを飲み干した。  さらにレモンサワー、ジントニック、カシオレとグイグイ飲んだ。趣味でやっている店というだけあって、90分300コッパーでは絶対に飲めないはずの高級で上質な酒ばかりが並んでいて、どれを飲んでも美味しかった。  甘く味付けされた肉が入ったドラゴンまんじゅうも、蒸した肉も野菜もどんどん食べた。 「師匠の家じゃ、こんなごちそうは食べられなかったから、幸せ。追い出されてよかったあ」  すっかりお腹が満たされて、気分もよくなったとき、ガルドが僕の顔をのぞきこんだ。 「ところでエリオットちゃん。今日はこんな遠くまで、何しに来たの?」  その言葉を聞いて、薬草を塗ったおしりが疼いた。 「忘れてた! ドラゴン退治に来たんだ。僕、ドラゴン退治をしなきゃいけない呪いにかかってるんだよ。どこかに弱っちいドラゴンいない? エッチして気持ちよくなって『おじさん、負けちゃったなあ』って言ってくれるドラゴンでもいいよ」  僕の顔を見て、ガルドはぱちぱち瞬きをした。 「今、この洞窟には、ドラゴンは俺しかいない。俺だけ」 「ええっ? ほかのドラゴンはどこにいるの?」 「みんな、バカンスに出かけてる。俺は留守番」 「バカンス、とは?」  弱っちいあるいはスケベなドラゴンを、僕はどこまで探しに行かなきゃいけないんだろう。  気が遠くなってた僕にヴィンテージワインを差し出して、ガルドは部屋の奥からたくさんの手紙の束を持ってきた。 「すぐそこにエッチな森があるだろ。もともとはドラゴンが討伐されないように設置したトラップだったんだけど、気持ちいいって評判になっちゃって。それでドラゴンたちが性風俗店を始めたら大当たり。死んでもいいから気持ちよくなりたいって人間たちが殺到してね。道に転がってる骨は、森からはみ出ちゃったやつ」 「はみ出ちゃったやつ……」 「それで人間が絶滅しちゃったから、暇になってさ。性風俗店で稼いだお金で、ドラゴンは世界中へバカンスに行ってる。大きなニュースになったと思うけど、知らなかった?」  見せてくれたたくさんの写真は、どのドラゴンもバカンスを満喫していた。南の海でサーフィンをしていたり、雪山でスキーを楽しんでいたり、さらには氷河見学ツアーや、豪華客船の旅など、その内容は多岐にわたる。でも全員が共通して金の鎖のネックレスをじゃらじゃらつけているのが面白かった。 「50年くらい、師匠の家から出なかったから、全然知らなかったよ。新聞くらい読めばよかった」 「エリオットちゃん、新聞も読まないなんてヤバいNE♡」 「うるさいな。師匠にこき使われて、新聞はかまどの焚きつけにするものだったの!」  僕はヴィンテージワインのボトルに直接口をつけて飲み、ガルドを見た。 「ガルド、悪いけど僕に退治されてくれる?」 「YA☆DA☆YO」 「戦うだけじゃなく、何でも僕に負けたって思ってくれればいいんだ。師匠の呪いは、相手が降参すれば解けるんだ。エッチな僕を見て我慢できなくて『参りました』っていうのでもいい」 「うーん。エッチなエリオットちゃんか」  ガルドは眉間に皺を寄せ、腕組みをして真剣に考え込んでいるが、背中の羽はこの先の展開に期待しているらしく、ぱたぱたと動いてる。意外に素直で可愛いタイプなんだな。  僕はガルドの肩に頭をのせた。 「急にエッチしようなんて言われても、困っちゃうよね。わかるよ」 と言いながら、僕は着ていた黒いワンピースの裾をゆっくりまくり、ガーターベルトがついた絶対領域を見せた。ガルドの目は大きく見開かれ、つやつやな絶対領域をガン見してる。よしよし、この調子だ。僕はあごを引き、上目遣いでガルドに笑いかける。 「お店の中、地熱で暑いね。このボタンも外していい?」 「い、いいけど」  僕はワンピースの前ボタンを一つずつ外していく。キャンドルの灯りが揺れて、ガルドの緑のうろこに伝う汗がキラキラ光った。  乳首が見えそうで見えないギリギリで止めると、ガルドがそわそわ頭の位置を動かす。 「ガルドは胸が好きなの? あのね。僕、おしりにはもっと自信があるんだ」  スカートの裾を太ももの付け根まで上げて、手を止めた。 「あ、やっぱりダメ。僕、今日は……」  顔を赤くしてうつむくと、ガルドが慌ててのぞきこんでくる。 「どうしたの? 体調よくないの?」 「ううん。あの、その」  僕は手招きしてガルドの耳を両手で覆い、熱っぽい声でささやいた。 「パンツ穿いてくるの、忘れちゃった」 「うおおおおお!! エリオットちゃん、マジでヤバいNE♡」  ソファに押し倒されて、ガルドの熱い息が首に当たる。鋭い爪がそっと肩に触れて、顔が近づいてくる。キスされる直前、僕は顔をそらして耳元で囁いた。 「降参って言ってくれたら、続きをしてあげる。ねえ、ガルド。僕の呪いを解いて」 「エリオットちゃんは強すぎる……。降参だっ! ドラゴンはエリオットちゃんに退治されましたっ!」  その瞬間、僕の身体から黒いもやが離れて行った。身体が軽くなって、エネルギーが湧いてくるのを感じる。自分が思うより強く呪われていたみたいだ。 「エリオットちゃん、呪いは解けた?」 「うん、解けた!」 「マジかよ! 最高だNE♡」  ガルドが笑って僕に抱きついてきて、ソファの上で身体が密着した。緑のうろこが首筋に擦れて、少しひんやりしてるのに熱っぽい。 「また寂しくなるな。次はどこへ行くの?」 「うん……」  もうガルドにも、この店にも用はない。  でもテーブルの上に広げられた仲間のバカンスの写真や手紙や、使う人がいなくて新品のまま色あせている店の中を見たら、今、身体を引き離して彼をまた孤独にさせるのは、いくらなんでも残酷な気がした。 「ねえガルド。もし嫌じゃなかったら、最後までしよう」 「エリオットちゃんの勝ちだよ。もう勝負はついたんだから、そんなことはしなくていい」 「僕、ガルドとしたい気分なんだ。もう少しくっついていたい」  僕はガルドの胸に抱きついた。
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私は、ファンタジーなら何を書いてもいいと誤解しています。 そして私、下品方向には筆がノリやすいことに気づいた。そんなこと、5年前から気づいていてもよかったのん。