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2 ヤンキーと高校教師
『なぁ、また後ろからぎゅってしてよ』
『はいはい』
センセイは仕方ないなと言いたげに、言われた通りにしてくれた。
これ、スゴい落ち着く。
スゴい好き。
今まであった面倒なこと、全部どうでも良くなって。
振り向いて、抱き締めて、顔を上げたら、センセイは優しい顔で、キスしてくれた。
きっともう、何も心配しなくていい。
迷ったらセンセイが大切なこと教えてくれる。
俺は精一杯の笑顔を見せる。
嬉しい気持ちを、センセイにちゃんと伝えられたと思う。
・・・・・・・・・・
俺の今一番の推しは、ヘタレ高校教師の南方 先生だ。
劇団員で二十九歳のお兄さんだけど、三十五歳の役をしている。
俺は二十歳 で十七歳のヤンキーの役をしてるんだけどな。
南方先生は役に入り込んでいる時は脱力系なんだけど、じっとみんなの演技を見てたり、ヘタレとはどんなものか人に聞いてたり、ものすごい真面目に作品に取り組んでる。
真剣な顔で黙って考え込んでるトコが、たまらなくカッコいい。
それに気付く前にキスシーン撮り終わって良かった。
休憩時間、川崎くんにそうこっそり熱く語ると、黒縁伊達眼鏡を持って南方先生のところに飛んで行った。
俺も後を追う。
南方先生に眼鏡を渡す川崎くん。
南方先生がスマートな動きで眼鏡をかけると、眼鏡に興味のない俺から見ても、似合っている。
そして川崎くんは大興奮。
「ありがとうございます!! 癖毛黒髪に黒縁眼鏡とか、最高です!」
「あはは、どういたしまして」
南方先生は大人な笑顔で礼を言う。
やっぱ、ホントに寡黙な人ってあんまりいないよな。
ここで『何が面白いのかわからない』みたいに無表情になる人なんて、ただの空気読めない人だ。
クールとか寡黙とか、俺と川崎くんが好きなものは幻想に近い。
そして、多分南方先生が好きなヤツがもう一人いる。
遊び人大学生の白石 くんだ。
二人が話してるトコをチラッと見たんだけど、南方先生が、
「鏡の前で、客観的に見た動きを考えてるんだよね? すごく参考になる。知らないうちに演技盗んでたらごめんね」
って白石くんに言ってて、白石くんははにかみながら、
「特許取る予定ないので、どうぞ盗んで下さい」
って返事してた。
俺なんかはとことん感情移入して、なりきってなりきって演技してるから、全然タイプの違う役者なんだなーと思ったり。
それは置いといて、白石くんも南方先生が大好きに違いない。
ライバル多いし。
けど、俺は別に南方先生とどうにかなりたいワケじゃない。
素の南方先生の写真を百枚くらい撮って、後で写真を見ながら『カッコ良すぎる!』って悶絶できればそれでいいんだ。
川崎くんと北上先生の撮影が始まるから見に行こう。
明日、俺も北上先生との撮影になるから、イメージトレーニングしたいし。
そして川崎くんがキスシーンでテンパって撮り直しになったら、『ほら見ろ』って言う大事な仕事もあるからな。
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