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5 ショタと弁護士と遊び人
『そうだな。川崎が何を考えてどうしたいのか、感情を全てぶつけて来たから、傷付きもした。おかげで、君の事は概 ね理解しているつもりだ』
本当の僕を知っていて、どうしてそんな優しい目をするのだろう。
戸惑う僕に、北上さんはもう一度、確かな口調で告げた。
『その上で、君を愛していると言っている』
冗談を言う人じゃないのはわかってる。
それでも信じられなくて、僕はまた意地悪をしてしまう。
『だったら、僕に、キスをして』
震える声でそう言うと、北上さんはソファから立ち上がり、僕の腰を柔らかく抱き寄せる。
僕の髪を撫でて目線を合わせると、静かに優しく唇を重ねた。
感情が真っ直ぐ伝わってきて、受け止めきれなくて、僕はその胸に縋 り付く。
支える彼のその腕に、戸惑い、俯 き、呟 いた。
『今の僕の気持ちも、もうわかっているんでしょう?』
・・・・・・・・・・
北上先生との撮影が、終わった。
北上先生が、
「やった! 二連続で一発OKだ! やった!」
と大喜びしている横で、川崎くんである俺は、
「何でだよ……」
と意気消沈している。
あの弁護士、何であんな軽いのに、演技始まると神が降臨したみたいになるんだよ!
鳴瀬くんの言う通り、大好きの権化 に見つめられて、俺はかなりテンパった。
でも、川崎くん的にはテンパってるぐらいで丁度良かったらしく、
「迫真の演技だねー」
とか言われて、撮り直しがなかった。
撮り直ししなかったんだよ!
もっとキスしたかったんだけど?!
さっきの迫力で『愛している』って、何回も言ってもらいたいんだけど!
鳴瀬くんの胸倉掴んで揺さぶってやりたい俺の気持ちに全然気付いてない北上先生が、
「どうしたの? 納得いかなかった? すごく良かったと思うけど」
などと、抜けた感じで聞いてきたので、
「いや、北上先生最高でした、ありがとうございます」
と、真面目に頭を下げてきた。
さっきの北上先生にはもう一生会えないのかと思うと、惜しい、とにかく惜しかった。
「鳴瀬くんばっかりいっぱいキスしてズルくない? ズルいよな?」
スタジオから控え室に行くと、鳴瀬くんの元に駆け寄って胸倉を掴んで揺さぶってやった。
鳴瀬くんは笑いをこらえながら反論する。
「わざとじゃねーんだから、ズルくねーだろ!」
そこに、今から小野田さんと撮影に入る遊び人の白石くんが近づいてきた。
「川崎くん、私の撮影終わるまで絶対帰らないでね」
次の組み合わせになる白石くんと、朝に少し読み合わせしたんだけど。
この人、ショタが好きらしい。
本物のショタと出歩くと捕まるから、俺と夕飯食べたいとか言ってきた。
俺と出歩いても捕まると思うけどね。
毎日鳴瀬くんと夜九時十時に駅まで歩くだけで、警察か学校関係者に三回くらい声かけられるからね。
「やだよ、もうちょっとしたら俺は鳴瀬くんと帰るよ」
俺はこの人苦手。
見た目も声も男だけど、喋り方も振る舞いも自然に女の子で、俺の中では女の子に分類されている。
女の子は何考えてるかわからないから恐い。
トラウマあるわけじゃないけど、小さい時から蓄積された苦手意識。
「鳴瀬くんばっかりズルくない? ズルいよね?」
俺に次いで白石くんにまでズルいと言われた鳴瀬くんは、焦った笑いで提案する。
「じゃあ三人で夕飯食べようか」
「やだよー、もう帰ってもいいんだから帰るよー」
「川崎くん強いなー、普通苦手でも気を遣うもんだよ?」
俺が変わらず駄々をこねて鳴瀬くんがそれをなだめていると、白石くんは多分御手洗いから戻ってきた北上先生の胸ポケットから眼鏡を拝借して、かけやがった。
そして腕組みをして、斜めに構え、にっこり笑う。
「これなら、どうですか?」
スレンダーミディアム茶髪オシャレ眼鏡だー。
「あっ、はい。喜んで夕飯ご一緒させて頂きます」
小野田さんと白石くんの撮影中、俺と鳴瀬くんは、北上先生や南方先生と一緒にオフな写真を撮ったり、まだ撮ってないシーンの読み合わせをして撮影が終わるのを待ちました。
苦手な人も好きになれちゃう『眼鏡』って、スゴいね!
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