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9 弁護士とショタと男前
唐突に、モテ期が到来した。
可愛い系の川崎くんが、俺の役である『眼鏡弁護士の北上先生』というキャラクターが大好きだというのは、彼の自己紹介の枕言葉で聞いた。
だがそこに何故か、俺自身が好きだとかいう小野田くんが加わった。
「ちょっと川崎くん、北上先生に眼鏡かけないでよ」
「北上先生って眼鏡が本体なんだけど」
二人で俺の伊達眼鏡をかけたり外したりして、目に刺さりそうで恐い。
鳴瀬くんは二人を見て、
「二人共、眼鏡壊れるからやめなよ」
とか言うし。
「鳴瀬くん、眼鏡じゃなくて俺の心配してよ」
モテるのは悪い気はしないけど、相手が男ではあまり喜べない。
何だかんだでみんな楽しんでるんだろうから、水を差すような事はしないけど。
二人はまた言い争いを始める。
「俺なんかもう、北上先生とキスしてるからね」
「俺なんか最後の最後に北上先生押し倒すからね。ねぇ北上先生、キスシーンの練習しようよ」
「えぇ、この流れで練習始めるの?」
既にキスした人が二人見てるんだけど。
川崎くんは嫉妬するかと思いきや、
「わー、俺も見たい!」
などと言い出した。
川崎くん的には俺じゃない本物の北上先生が見れるし、小野田くん的にはキスできるし、win-winなんだそうで。
ほっとくと二人がいつまで言い合いしてるかわからないからなぁ。
「仕方ない、じゃあやるか」
立ち上がると、小野田くんが自分からキスする方の台本を開いて置いて、テーブルの横に立つ。
俺もさらっとそれに目を通して、テーブルを背に手をついた。
『どうぞ』
言うと小野田くんは、俺の腕と身体の間に手を差し込んで、テーブルに手をつく。
身長差があるので、やや高い位置から、泣きそうな顔で見下ろされる。
『多分、北上さんだけだよ、俺を救えるのは。責任持って救ってくれるの?』
『俺しかできないなら、やるしかないだろう』
眼鏡を外して胸ポケットにしまい、笑みの形に目を細める。
『今までで一番、やり甲斐のある仕事だな』
唇が何度か重なって、徐々にテーブルに肘をつく。
長い口付けで次第に崩れるようにしゃがみ込み、あとはテーブル横で押し倒されて深刻に見つめ合う、はずなのだが。
「おぉーい! 何やっちゃってんの!?」
小野田くんの左手が下腹部に触れたので、俺は華麗に身をひねって小野田くんとの距離をとった。
小野田くんはニコニコしながらのたまう。
「だって俺、こういう流れだって解釈したんだもん」
「だってじゃねーよ、台本通りにやれよ!」
さらに川崎くんまで参戦してくる。
「おいガチホモ、北上先生を汚 らわしい手で触んな! 北上先生もなんで眼鏡外してんだよ!?」
えぇ、俺にもダメ出しあるの?
確かに台本には書いてないんだよな、何となくやっちゃったよ。
一緒に怒られた小野田くんは、やはりしれっとしていた。
「合法ショタにはこんな展開ないもんなぁ。残念だな。ははは」
そして鳴瀬くんは鳴瀬くんで、
「北上先生いいなー」
と羨ましそうに見ている。
俺、今、何してんだろ?
遊んでるの?
でもこの感じ、嫌ではない。
小野田くんも川崎くんも鳴瀬くんも、味のある人間が真剣にいい演技をしていると知っているから、これくらいふざけられても信頼は揺るがない。
ちゃんとオーディションしただけはあるなと思う。
「ねぇ小野田くん、眼鏡外すのどうなの? ダメなの?」
小野田くんは、男前大学生の笑顔で言った。
「色っぽくていいですよ、北上先生」
言いながら多分俺の尻を触ろうと手を出してきたので、握手の形で掴み取る。
「はい、じゃあ俺からキスするほうの練習するぞ!」
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