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12 ヤンキーと遊び人

鳴瀬(なるせ)、起きろ!』  剥がされた掛布団を取り戻して、目を擦る。  俺がここに転がり込んだこと、白石(しらいし)はやたら喜んでるみたいで。  テーブルに朝飯準備してる、そういうコトするヤツだって、知ってたけど。  嬉しいんだけど、飼いならされそうな気がして腹立って、ベッドに肘ついてこっち見てる白石に、起き上がってキスをした。  白石は予想通り、笑ってんのか怒ってんのかわかんない顔して、俺に馬乗りになってくる。 『おい、自分が上に立ったと思うなよ』  まだそんなコト言うの?  ()退()けて逆に馬乗りになってやって、手首がっちり押さえてもう一度、唇をふさいだ。 『俺がいなくなって困んのは、おまえだろ?』 ・・・・・・・・・・  鳴瀬くんさ、ベッドで服着てないんだけど、エンディングの前の晩に白石くんとヤッてんのかなーって、思ったんだよね。  服着ないで寝るタイプの人らしいけど。  でも思っちゃったから、白石くんとヤッちゃったりヤられちゃったりするトコとかイメージして、メチャクチャ感情移入して今日撮影したんだよね。  そしたら今日は、白石くんが好きすぎて困っている。  俺ヤベーやつだな。  中の人は同い年だけど、役の上では五歳年上で、背もちょっと向こうが高いし、顔も相当イケメンなんだけど、それがネコになっちゃうのがたまらなく可愛い、まぁ想像だけど。  いつものファミレスで一緒に夕飯食べようとしてるんだけど。  今日に限って川崎(かわさき)くん、事務所に行くって言って帰っちゃうし。  残り一組で撮影終わるから気合い入れるって言って、白石くんは女の子にならないでずっと白石役のままだし。  この人ちょっとSっ気あるから、俺が困ってるのを楽しんでるのかも知れない。  小野田(おのだ)さんと南方(みなかた)先生と北上(きたかみ)先生もキスしたけど、今までは『惚れる』くらいのレベルだったのが、今回突き抜けちゃってる。  これ、元に戻るのかな。      「あのさぁさっきも言ったけど、今日の俺おかしいから、そっちの席に行ってくんないかな?」  白石くんと二人、四人掛けの席に座ったんだけど、向かいの席に座ればいいのに隣に座ってる。 「えー、俺、鳴瀬の隣に座りたーい」  移動するどころか肩組んでくる。  あーやだ、あったかいんだけど!  白石役だけシナリオの最初からバイセクシュアル、その上遊び人だから、グイグイ来る。  中の人が『カッコいい男の振る舞い』を鏡見て追求してるから 、一挙手一投足が洗練されてて、今の俺には結構毒だ。  設定に忠実なのは素晴らしいんだけど、この派手目なイケメンがファミレスで男とイチャコラしてんの、なんか目立ってない?  料理が運ばれてくると、俺と肩を組んだまま、 「お姉さん、どーもありがと!」  とか言って、店員さんに愛想を振りまくし。  コイツ酔っ払ってんじゃねーかと思う。 「どーした鳴瀬? ヤキモチ焼いてんの? 可愛い」  そして間合いが近過ぎて、頬にキスされるのもかわせない。  あぁもう、くすぐったい!  白石、ヤンキーとの絡みしか知らねーけど、ヤベーやつだな! 「もーやめて、大好きになっちゃうから」  困り果てて訴えると、やっと白石くんは、 「あー、それは困るな」  と、やっと俺から離れてくれた。  しかも隣で食べようとして、 「鳴瀬ちょっと邪魔だ」  とか言いながら向かいの席に移動した。  白石くんはドリアを一口二口食べると、椅子に踏ん反り返った。 「こーやってふざけられるのも、あとちょっとだなー」 「やっぱおまえふざけてたのかよ、ふざけんなよ!」  白石の自己中、そこまで再現しなくていいだろ!  俺の文句を全く気にせず、白石くんは髪を撫で付けながら目を細めた。 「キャラ濃い人いっぱいいて、楽しかったよな」 「白石くんが一番濃いからね」 「え、マジで? 嬉しい」  褒めたわけじゃなかったんだけど、ニコニコしながら食べるの再開した。  頭使って演技してるのは、褒めても足りないくらい凄いとは思うけど。  俺も天麩羅うどんすすりながら、ふと思う。  最後の一組、俺は川崎くんと撮影したら、この仕事全部終わりだ。  終わったらすぐ、大学行ってバイトする生活に戻る。  この先、川崎くんと飯食う暇なんてあるのかな。  ないのかな? 「もう終わりとか、ちょっとさみしーな」  声に出して言ったら、急に気分が沈んだ。  急に、胸になにかが、つかえてるカンジになった。  えっ、なにこれ。  食事の手が止まる。  なにこれ。  目の前の白石くんを見る。  さっきまでのギュンギュンした気持ちがなくなってる。  ひたすら、テンション下がってる。 「どーした、鳴瀬。俺と会えなくなるの、さみしーの?」  白石っぽくふざけて言ってるけど、なんか表情は素に戻って聞いてくる。 「白石くんじゃねーよ」 「じゃあ、誰だよ」  あー、今の答えじゃそう聞かれちゃうよなー。  いや、だから俺、なんでテンション下がってんの?  さみしいのか?  誰と会えなくなるのがさみしい? 「川崎くん、かな?」 「あぁ、仲良いよなー、ふたり」  仲良かったけど、『友達として』だよ?  テンション下がるほどさみしくなる? 「いや、違う違う。川崎くんとはキスもしたしラブホも行ったけど、なんともなかったし」 「え?! えぇ、そういう所行くなんて、だいぶ仲良いんだと思うけど?」  驚きのあまり完璧素に戻る白石くん。  誤解されちゃってる。 「いやいや、キスは読み合わせしててだし、ラブホもメシ食いに行っただけだよ!」  でもなー。  でも。 「でもやっぱ、川崎くんなのかな?」  自分でもわからなくて、聞いても仕方ないのに白石くんに聞いてみる。  白石くんは柔らかい表情で、 「そういうこともあると思うけど、どうなんだろうね?」  と言った。  どうなんだろ。  わかんねーから、ちょっと落ち着こう。  俺はメシ食うのを再開した。  白石くんもそれに続いて、無言でドリアを食べ始めた。

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