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13 ショタと男前と、
今日撮影休みだったんだけど、夜暇なのが小野田さんしかいなくて、仕方なく二人でとあるバーに来た。
小野田さん五コくらい年上だと思ったら、そう言えば大学生だし、一コしか上じゃなかった。
なんなのこの見た目の落差。
身長なんて向こう、二十センチくらい高いし。
バーに入ろうとしたら俺だけ止められるし。
慣れてるけどさ。
身分証出すの面倒だなーと思ってると、カウンターで洗い物をしている人が、手を止めて声を掛けてくれた。
「その人成人してるから、入れてやって」
そしてそのまま、『アキラ』と呼ばれたカウンターのバーテンダーみたいな人の前に通してもらった。
バーテンダーは俺たちにおしぼりを渡すとまた無言で洗い物を始める。
小野田さんが身を乗り出して、ニコニコしながら彼を見る。
「川崎くん、誘ってくれてありがとう。合法ショタとか言ってごめんね」
「ねぇ小野田さん、その人知り合いなの?」
「おまえアキラさん知らないのか」
「眼鏡かけてないと、ちょっとわからない」
アキラさんは拗ねた顔をして、
「わかってるじゃないか! 川崎くん行動早いよ」
と言った。
昨日、南方先生と北上先生がバイトの話をしているのを聞きつけて、そこに乱入して執念で北上先生のバイト先を聞き出した。
だって絶対見たいじゃないか、北上先生が『メンズバー』で働いてるトコ!
でも『アキラさん』、眼鏡してないし、ビシッとした弁護士じゃなくて若干フワッとしたヘアスタイルになってるし、全然北上先生に見えない。
けど、腕まくりした白シャツに黒ベストにクロスタイが、超似合ってて超かっこいい。
来て良かった、眼鏡してないけど、この北上先生でもいいや!
北上先生にお店のシステム教えてもらって、注文聞かれたから小野田さんと二人でビールだけ頼んだら、よその店でもいいじゃないかとため息をつかれた。
多分北上先生が俺らの話し相手をしてくれるメンズなんだろうけど、話すの苦手だからとか言って、ビールとお通し出してから放置された。
オーナーに気に入られて話術ないのに雇われてるらしいけど、この人オーナーに狙われてるんじゃないかな。
「ねえ小野田さんは男の人とエロいコトする時、どこでするの?」
小野田さん経験豊富そうだから、せっかくなので疑問に思ってたこと聞いてみる。
「俺は今まで付き合った人、みんな年上で一人暮らしだったから、その人の家だな」
さらっと答えてるけど、みんなとか、本気で経験豊富なのかよ。
「北上先生は一人暮らし?」
酒を作ってる北上先生に不意打ちで尋ねる。
「えっ、そうだけど」
「北上先生とエロいことするなら、先生の家か」
言うと、小野田さんは、
「ふふ」
と妖しげに笑った。
「ちょっと、何の話してんの!」
酒が回ってきて、北上先生をからかうのがいつも以上に楽しい。
小野田さんはビールを一口飲むと、逆に俺に聞いてきた。
「川崎くん、今から男とエロいことするの?」
「まだ付き合ってる訳じゃないんだけど、あのさ。男のこと好きになるのって、悩んで辛かったりするもんだと思ってたんだけど、そうじゃない時ある?」
「俺は悩むのしかなかったけど、相手がノンケじゃなければそんなに悩まないのかな、って、あれ? 鳴瀬くんなの?」
速攻でバレてる。
まぁ、ノンケじゃなくて小野田さんか鳴瀬くんかって言ったら、鳴瀬くんになるよな。
「俺もよくわかんないんだよね。鳴瀬くんとキスもしたしラブホも行ったけど、全然ときめかなかったし」
「ときめかないのにラブホに行って、何したんだよ」
ですよね。
なんであの時、なんかしようと思わなかったんだろうね。
「飯食っただけだよ。けどさ、明日明後日で撮影終わって、平日は鳴瀬くんバイトだし、休みの日は俺一日中バイトだし、会えなくなるなーと思ったら」
すごい、さみしくなった。
ちょっと恥ずかしいくらい、さみしくなった。
小一時間飯食うだけじゃ足りない。
どうにかしたいと、思った結果。
「今さらエロいことしたいって思ったんだけど、それって好きってことだよな?」
「んー、遊びじゃないなら、そうなのかな? 気持ち動かなきゃ知り合いにエロいことしないような」
やっぱそうなのかな。
北上先生は手が空いたのか、『自分も頂いていいですか?』と尋ねてビールで乾杯してきた。
今度は北上先生に聞いてみる。
「北上先生さ、俺と鳴瀬くんだったら、どっちがタチだと思う?」
「は? 川崎くん小さくて可愛いから、鳴瀬くんじゃないの?」
普段こういう話はしないであろう北上先生は、この答え以外に何があるのかといった感じで答える。
小野田さんは、
「俺は川崎くんがタチだと思うけど。鳴瀬くんトコ襲いたいって言ったし、鳴瀬くん優しいし年下だからネコでしょ」
と、反対意見を出してくる。
襲うなんて言ってないし、おまえは年下でタチだったんじゃないのかよと突っ込みたかったけど。
「俺、そこもわかんないんだよ。タチかネコかわかんなくても、構わないモンなの?」
なんか、鳴瀬くんのこと好きだとして、どう好きになればいいのかわからない感じ。
「好きだからどっちもいけるとなれば、それは理想的だよ、相手に合わせられるから。いくら好きでも、タチやりたくない、ネコやりたくないって別れることもあるからね」
あ、これ好都合なんだ?
すごく貴重なご意見いただいた。
今頃気付いたけど、小野田さんて結構いい人なんじゃない?
小生意気な俺に合わせて北上先生とふざけてくれるし、付き合い短いのに、親身に話聞いて真剣に答えてくれてる感じがする。
鳴瀬くんが好きな小野田さん的な人の成分って、こういう包容力なのかな。
あれ、鳴瀬くん、小野田さんみたいな人好きだった?
「ちょっと! そう言えば俺、鳴瀬くんに好みじゃないって言われてるよ?」
小野田さんと正反対って言われてる。
もしかしてイケるかなと思ったけど、大丈夫なの?
小野田さんは困った顔、しなかった。
「川崎くんも北上先生が好みなのに、鳴瀬くんに行ったんだろ。望みないワケじゃないさ」
「鳴瀬くん、小野田さんがタイプなのに、南方先生カッコいいって言ってたんだけど。昨日なんか、白石くんが好きすぎるって言ってたからね」
「えっ、俺のことは何も言ってないの?」
北上先生のことは聞いてなかったなー。
えー、あのヤンキー、惚れっぽいのか浮気性なのか。
「鳴瀬くん、感情移入ハンパないからな。良かったね、撮影ラストで。そのままの勢いで告白したら成功するんじゃないの?」
小野田さんがなんか、優しい笑顔でそう言う。
運良くまた好都合来たのかよ。
俺じゃなくて『川崎くん』好きになられても困るけど。
あとは、鳴瀬くん次第か。
鳴瀬くんもラブホに行って、俺に気のある素ぶり全然見せてないんだけど。
「鳴瀬くんに気がなくても、友だちは続けられる気がするから、言うだけ言ってみる。ダメだったら、会う機会もないだろうし、すぐ諦めつくよね」
会えない、と思うとすごくヘコんだ気分になったけど、言いたいから言う。
俺、胸に秘めたりする性分じゃないし。
「川崎くんは強いな。頑張って」
強いって、鳴瀬くんにも言われたな。
小野田さんは、俺子供じゃないのに、頭を撫でてくれた。
悪気ないんだろうから怒らないけどね。
撫でられながら、大人しく俺らを見ていた北上先生を見る。
「小野田さんは、北上先生と仲良くなったりしないの?」
俺みたいに眼鏡が好きなんじゃなくて、中の人が好きなんだよな?
小野田さんはチラッと北上先生を見る。
北上先生も気まずそうに口許を引き締めて、小野田さんを見る。
「俺はもう、付き合おうって言って、フラれてるし」
「あぁ、何か、申し訳ない」
そうなんだ。
からかってるだけかとも思ったけど、もう話付いてるんだ。
からかわなければ成功したとか、ないのかな。
「でもこれでいいんだよ、アキラさん。俺ノンケ好きだから。応 えられたら、アキラさんノンケじゃなくなっちゃうからね」
ん、じゃあ、小野田さんの恋愛って、今までどうやって成就させてたんだろう。
歳、二十二でしょ。
それで経験豊富ってことは。
相当な遊び人なの?
いや、この人そうじゃないよね、ふざけてるけど誠実な人だ。
たくさんの恋愛が終わってるって、ことなのかな。
小野田さんは北上先生に手を伸ばして、クロスタイにサラッと触れた。
「ねぇ、北上アキラさん?」
「鹿島だけど」
北上先生はまた拗ねた顔してクロスタイを整えてから、二人分のビールのお代わりを注 いでくれた。
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