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15 ヤンキーと、ショタ。

 今までショタに全く興味がなかったから気付かなかったんだけど、川崎くんってホント、可愛い顔してる。  目が大きくて、色白でキレーな肌してて、背が低めで頭が小さくて、ほっぺ触ったら気持ち良さそう。  オーディションで選りすぐられたショタだもんなー。  これで俺よりいっこ上なんだよな、おかしいよな。  さっき終わった静止画の撮影は、慣れたせいか小野田さんときの二の舞にはならなかったけど、明日は大丈夫かな。  休憩して小腹を満たしてから、動画のシナリオの立ち稽古する。  離れたトコで白石くんと南方先生もしてたけど、キスまで普通に練習してるの、これももう見慣れたな。  台本を置いた川崎くんが俺の間近に立って、困ったような媚びるような目で見つめてくる。  あー。  ダメだ、俺、この人好きだー。  演技じゃないこの顔見たい。  いやいやいや、集中しないと。 『鳴瀬くんのせいだよ、あんまり優しくするから。好きになっても、良かったんだよね?』 『勝手にすれば?』  俺が応えると、川崎は了解の意思表示のように、ためらいなくキスしてきた。  俺からしようと思ったのに、予想外に向こうから積極的に来やがって、俺は面食らって動けなくなる。  俺もお前が好きだと思ったから、似合わない世話焼きなんかしたんだ。  いつもなら面倒になって投げ出すレベルのこと、やり遂げた。  狙い通りお前の気持ちを手に入れて、お前のこと好きにしても構わないんだろうけど、ちょっと好きすぎて、川崎を見るだけで、動揺してしまう。 『お願い、もう一回、キスさせて』  だから。  見てるだけでいっぱいいっぱいだってのに。  澄んだ顔をした川崎がまた近付いてきて、  川崎ね、うん、これ川崎くんだよ?  明日キスしたらもう毎日は会えなくなる川崎くんだよ?  なんか抱き締めたくなってウズウズするし。  でも照れて困った顔してないと。  キスされてる、しかも二回目は『鳴瀬くん』を困らせるための長めのキス。  前に練習したときは全くなんともなかったのに、今は両肩に置かれた手のひらの感触にすらドキドキしてる。  あー、ホント頭の中いっぱいいっぱいなんだけど!  受けと攻め、一通りやったけど。  いいんだよな、照れまくっても。 『鳴瀬くん』ってツンデレだから!  と思ったのに、川崎くんはなんか深妙な顔をしていた。 「鳴瀬くん、演技なのかホントに照れてるのかわかんないな」  なんだよその感想。 「どっちでもいいだろ、ちゃんと照れてれんだから! 照れ過ぎてダメなの? 照れ方がヤンキーとしておかしいの?!」  問題ないと思ったんだけど。  川崎くんも北上先生のとき、本気(マジ)照れしてオッケー出たじゃないか。  どうすりゃいいのと困っていると、川崎くんは、悪いこと考えてる顔で、笑いながら言った。 「ちょっと声出せるトコ行って、明日のために特訓しよう」  そして、こないだ二人で来たラブホに連れて行かれた。  川崎くんは前のように白石くんにメイクしてもらって、ボブカットのウィッグもどこからか借りてきた。  白石くんは俺が川崎くんトコ好きかもしれないの知ってるから、川崎くんが冗談めかして俺とデートするって言ったら心配そうに俺を見てた。  こんなトコでキスの特訓とか、俺できんのか?  でもな、明日で最後だから、絶対中途半端なコトはしたくない。  ここでちゃんとできれば、明日も大丈夫だろう。  こないだとは違う部屋、白が基調で、赤い家具やらシーツが薔薇を思わせる雰囲気の部屋だ。  飯も食べようとメニューの入ったクリアファイルを手にベッドに腰掛けると、川崎くんはなぜか俺の目の前に立ちはだかり、両手を腰に当てて悪い笑みを見せた。 「罠にかかったな、鳴瀬くん」 「え、罠?」  何が罠?  ここに座ったのが罠なのか、メニューを持って来たのが罠なのか?  川崎くんはそのままの姿勢で、少しだけ真面目な顔と声で言った。 「告白するために二人きりになったんだよ。俺、鳴瀬くんのこと好きなんだけど、鳴瀬くんは俺のことどう思ってる?」  は?  告白? 「川崎くんそれ、告白するときの態度じゃねーだろ!」  女装してるし、あまりにも雰囲気と言葉の内容がかけ離れていて、そのちぐはぐさに俺は吹き出しながらツッコミを入れていた。  でも川崎くんは、その体勢を崩さなかった。 「これでもすごい照れてんだよ。早く答えろよ」  そうか、ホントに真面目に言ってるのか。  なら俺も真面目に答えないと、って。 「え?」  川崎くんの質問を思い返して、ビビった。  俺のこと、好きだって言った。  すごい照れてるって言った。  全然照れてるようには見えないけど。  とにかく、早く答えないと。 「どう思ってるかって、俺も川崎くんトコ、好きだし」 「あのね、今言った『好き』って、恋人みたいになりたいって言う『好き』で、人として好きかって意味じゃないよ?」  あまりにあっさり答えたから、ちゃんと伝わらなかった。  詳しく言わなきゃダメか。 「あー、川崎くんと毎日会えなくなるのがスゲー寂しくて、キスシーンの練習してるときに抱きしめるトコじゃないのに抱きしめたくなる感じの『好き』だけど、それでいい?」  川崎くんはその瞬間、ボブカットの頭を抱えて、愕然とした表情をした。 「信じらんない、俺も同じだよ?」 「俺だって信じらんねーよ」  川崎くんが大袈裟に驚いてるせいか、俺は傍観してる感覚になって答えてた。  ミーハーなトコとか同じだなーと思ってたら、こんな急に寂しくなるトコまで同じなの?  川崎くんは何を思ったかウィッグを取って、手櫛で髪を少し整える。  そして、ベッドに腰掛けてる俺の隣に座ってきた。 「じゃあ、明日の特訓する前に、遠慮なく抱きしめてもいい?」  俺は。  返事しないで自分から川崎くんを抱きしめた。  だって川崎くん、可愛かったし、返事したら川崎くんから抱きしめてくるんだろうし、先手取りたいって思ったから。  肩口に顔を乗せると、川崎くんも俺の背中に手を回してきた。  ドキドキはしないな、癒される感じ。  川崎くんは声に出して、 「癒される」  って言った。  同じなんだ、嬉しいし。  ずっとこうしていたいなと思ったけど、川崎くんは身体を離して、ちょっと低い位置から俺の顔を見上げてきた。 「俺ってさ、中身がお子様だから見た目が子供に見えるんだよね、きっと。だからさ、大人なコトしたら、大人っぽくなるかな?」 「大人なコトって?」 「エロいことに決まってるだろ」  そう言って川崎くんは、『よいしょ』と言いながら俺をベッドに仰向けにさせる。  そして、俺の顔の横にヒジをついて、真剣な顔で、キスをした。  これは、かなり、ドキドキする。  川崎くんとキスは何度かしてるけど、他の人も合わせれば練習も含めてキスなんてかなりしてるけど、今は『エロいことする』って言われてキスされてるから、全然別物。  じきに舌が唇に割り込んできて、内臓がジリジリしてくる。  俺も舌出したほうがいい?  いやいや、えー、ちょっと! 「ちょっと待って! 俺ってどっちなの? 受けなのもしかして?」  急な展開になんか焦って、俺は無礼にキスから逃れて声を上げた。  言われた川崎くんのほうはぼんやりとした表情で、 「決めてない。どっちがいい?」  と、聞き返してきた。  こういうの、決めるとか決めないとかいうモンなのか?  俺、好きになるなら小野田さんみたいな人だと思ってたから、自分は受けに相当するとは思ってたけど、相手は川崎くんだろ。  川崎くん可愛いけど、中身は強気な変人だから、川崎くんが受けなのか攻めなのかわからない。 「俺が決めるの? 難しいんだけど」  責任重大じゃないか、今すぐ決めなきゃいけねーのかよと戸惑ってると、川崎くんは、軽く笑った。 「鳴瀬くんもどっちかわかんない? ならまだ決めなくていいよ」 「いいの?」 「エロいことって、入れるか入れられるかだけじゃなくて、キスして触って舐め合うだけでもいいって、小野田さん言ってたから。それなら別に、決まってなくてもいいよね」  知らないトコでなかなか濃い話してるな、でも。 「それならできそう。俺、超初心者だから」  好きな人にどうすればいいかわからないなんて、なさけないけど。  川崎くんが自分をお子様だって言ったように、俺もガキなんだ。  十七歳の役が違和感なくできるレベルで色々未熟な人間だ。  でも川崎くん、俺が不甲斐ないからって機嫌悪くなるような人じゃないし。  これでも、いいんだよな。  それから、明日も仕事だから軽めにと言いながら、こんな場所に来たんだからやらなきゃ損だろって俺から言って、服脱いでちょっとエロいことをした。  俺から攻めたいとも思うし、川崎くんに攻められたいとも思うし、結局最後までどっちがいいか決められなかった。  川崎くんも同じって言ってた。  でもホント、どっちでもいい。  どっちもいい。  一つ年上の川崎くんに、俺なんでタメ口きいてるんだろう。  会ったその日から、今と同じテンションで話してたと思う。  告白された今でも、テンション変わらない。  この先もきっと、変わらない。  一緒に風呂入って、明日の特訓もちゃんとして、時間内には外に出た。  それから一緒にガッツリ飯食って、家に帰った。  ずっと今の自然に楽しい気持ちで過ごしたい。  俺はそれ、できる気がする。

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