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第二章・2
自分の部屋に戻って、瑞樹は涙を流していた。
厳格な父。
小言の多い母。
「もう嫌だ。こんな家、いたくない」
そこへ、控えめなノックがされた。
「瑞樹、大丈夫か?」
「兄さん」
入っても、いいか。
静かな声が、優しく問うてくる。
瑞樹は立ち上がり、自分でドアを開けた。
「また父さんに、叱られたらしいな。仕事、遅くなってごめん。俺がいれば、止められたのに」
この家で唯一、瑞樹に優しいのはαの兄だった。
年が離れているせいもあり、幼い頃から何かと守ってくれていた。
「ううん。兄さん、もう少ししたら家から出るでしょう。これくらい、我慢しなきゃ」
まもなく実家を離れ、一人暮らしを始める兄。
それは瑞樹にとって死の宣告に近かったが、精いっぱい強がって見せた。
大丈夫、と笑って見せた。
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