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第二章・5
「電話だけでもしてみようかな」
電柱の前に立ったまま、瑞樹は求人票片手に電話をかけた。
3回のコールの後に、男性の声が聞こえて来た。
『はい。叶(かのう)植物園です』
「あ、あの。白川と言います。求人募集を見て、お電話したのですが」
『張り紙に描かれていた花の名前が、解りますか?』
「トルコギキョウ、です」
『正解です。では、面接に来てください。住所は……』
電話を切って、瑞樹はホッと一息ついた。
「植物園だったのかぁ」
それで、花の絵が大きく描かれていたのだろう。
それがトルコギキョウと解ることが、採用の第一歩だったに違いない。
「よし、幸先がいいぞ!」
花が好きで、よかった。
まずは、第一関門突破だ。
リクルートスーツなど持ってはいないが、できるだけ清潔感のある服装で訪問しよう。
そう考えながら、瑞樹は張り紙を大切に四つ折りにすると、バッグにしまって歩き始めた。
新しい世界への、第一歩のような気がしていた。
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