45 / 67

第六章 辛いけど、苦しいけど、そして、悲しいけど。

 誠の求める空のような青を持つバラは、なかなか生まれなかった。 「土壌を、もう少し酸性にしましょうか」 「これがアジサイなら、すぐに真っ青になってくれるだろうがね」 「散水の量を、減らしましょうか」 「さて、どのくらいから始めてみようか」 「肥料、もう少し増やしましょうか」 「有機肥料も混ぜてみるかな」  そうして咲いた、青いバラ。 「失敗だ」 「え? で、でも」  以前のものより、随分と青が強い気がします、との瑞樹の慰めも誠には伝わらなかった。  誠は全ての作業を放って、温室から出て行ってしまったのだ。 「叶さん!」  ばたん、と荒々しい音を立てて閉められた、ドア。  差し伸べた瑞樹の手も、阻まれてしまった。  パタリ、とその腕を下ろし、瑞樹はバラに向き直った。 「せっかく咲いてくれたのに、ごめんね」  後の処理は、僕がやっておこう。  のろのろと、瑞樹はバラを3D写真に収め、データ処理を行った。

ともだちにシェアしよう!