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第六章・5

「……」  交わったまま失神した瑞樹を、誠は見下ろしていた。  不思議なものを見るような眼で。  ただ、のろのろと瑞樹の手首の縛めを解いて、自由にしてやった。  精と涙に濡れた、瑞樹の身体。 「……これで、この子も辞めて行くかな」  今までも、そうだった。  コツコツと築き続ける努力が、無駄になるかもしれないという不安。  それを紛らわせるために、助手の身体に逃げた。  コツコツと築き続けた努力が、無駄になった空虚。  それを埋めるために、助手の身体に当たった。  皆、怯えた悲しそうな眼をして、私の元を去って行った。  しかし、初めてこんな言葉を聞いた。 『明日も、バラ育てましょう……。頑張って、青いの、咲かせましょう……』 「白川くん」  すまない、と誠はうなだれた。  手首の痕は、まだ紅いままだった。

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