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第七章 瑞樹の誘惑
「叶さん、この子ちょっと元気がないんですけど」
「ん?」
瑞樹は、研究用のバラの株を指して見せた。
どれ、と誠はその葉や茎を見てみたが、特に変わったところはなさそうだ。
「白川くんの、思い過ごしではないのか?」
そうかなぁ、と瑞樹はバラの葉を裏返したり、植木鉢を持ち上げたりしている。
「そんなに気になるなら、好きなように処理してみなさい。君に預けよう」
「ありがとうございます!」
すると瑞樹は、植木鉢を抱えて温室の外へ持ち出した。
「白川くん?」
「少し、直射日光に当ててみます」
参ったな、と誠は微笑んだ。
生まれてこの方、温室から出したことのない株を、外に持ち出すとは!
「枯れても知らないぞ」
「その時は、すみません」
鉢を日当たりのいい場所に据え置き、瑞樹は他のことも考えていた。
(元気がないのは、叶さんもなんだけどな)
ほとんど毎晩、瑞樹の身体を求める誠が、もう4日もご無沙汰だ。
「ご飯とか、ちゃんと食べてるのかな」
後で石丸さんに訊いてみよう、と瑞樹はバラの葉を撫でた。
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