53 / 67
第七章・2
「確かに、若様の食欲は落ちておいでです」
「やっぱり」
どうしてだろう。
先だって、研究用のバラに蕾が付いた。
今度こそ、青いバラが咲くかもしれないのに。
「楽しみじゃないのかな」
それには、石丸が眉間に皺を寄せた。
「若様は、幼い頃から今は亡き旦那様と共に、幾度となくバラの咲く様を見て来られました」
そして、そのたびに落胆なさる旦那様の姿も。
「じゃあ、叶さんも」
「そう。若様も、旦那様と共に幾度となく落胆されて来られたのです」
可哀想な、叶さん。
瑞樹の眼に、涙がにじんだ。
何回も、何十回も、何百回も、雲をつかむような研究を重ねて、そのたびに夢を打ち砕かれてきたんだ。
「叶さんのために、何かしてあげたいな……」
「その気持ちだけでも、充分です。若様の力になってあげてください」
石丸はそう言ってくれたが、瑞樹は考え込んでいた。
ともだちにシェアしよう!