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第八章・5
そしてある日、他のバラとはさらに別にして大切に育んできた10株に、蕾が付いた。
「これが、ラストチャンスになるかもしれない」
「どういうことですか!?」
誠は長い前髪をかき上げ、物憂げに言った。
「伯父が、最近何かとうるさく手を出してきてね。放っておくと、財産のほとんどを奪われかねないんだ」
「そんな……」
青いバラは、叶さんの悲願なのに。
「僕、ただ働きでも構いません。研究、続けましょう!」
「ありがとう。でも、他の従業員のこともあるからね」
バラは、あくまで趣味。
本業に戻るよ。
そう言う誠の横顔は、悲しそうだ。悔しそうだ。
(神様、せめてこのバラを青くしてあげてください!)
瑞樹は、毎日そう祈った。
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