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第八章・6
屋敷の東側に面した土地に設けられた、叶植物園。
誠は、そこの再建に乗り出した。
荒れ放題の植物を整えながらも、瑞樹は気が気ではなかった。
(そろそろ、あの蕾が開くころだよね)
新しく雇われたスタッフと共に散水をしていたところ、息せき切って誠が駆けて来た。
「白川くん! 来てくれ、ちょっと!」
腕を引かれ、足をもつれさせながら連れて来られたのは、バラの温室だ。
「咲いたんだ、バラが! 青いバラだ、ほら!」
「わぁ……!」
それは、澄んだ空のように青いバラだった。
「君のおかげだ。本当にありがとう」
「そんな。僕はただ、お手伝いをちょっぴりしただけで」
君が入社した頃に、私はすっかり打ちひしがれていた、と誠は告白した。
どんなに手を掛けても青い花を咲かせないバラを、憎んでさえいた、と。
「だが君の存在で、私の心は元の柔らかさを取り戻していった。バラに対する愛情を、取り戻していったんだ」
瑞樹は、照れた。
僕は、植物が好きで。
そして、叶さんのことが好きで。
それで、がむしゃらに頑張って来ただけなのに。
ありがとう、と手を取られ、瑞樹はこの上なく満たされた。
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