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第5話
急遽大人数の来店にもかかわらず相模が探してくれた店は個室で落ち着いた雰囲気だった。αは相模を含めて3人、Ωはキキを含めて3人の合計で6人。相模以外はみんなモデル仲間なので多少なり交流があるため会話に入って困らない。しかし、キキはモデルの仕事を始めてからというものあまりこういう場へは顔を出さなくなっていた。それはイメージの問題もあるし、単に他人と深く付き合いたくないからでもあった。
注文を終え飲み物が運ばれてきた。相模の乾杯の合図でみんなでグラスを合わせる。
芸歴はあれど仲間内の上下関係はそこまでないので話が弾む。話の中心はやはり相模だった。相模は嫌な顔ひとつせず楽しそうに場を盛り上げていた。キキはしつこく誘われていたので、身構えていたがあまりの態度に拍子抜けした。
身構えていたのが少し恥ずかしくなるくらいだった。
(相模は純粋に食事に誘っていただけなのかもしれない。)
打って変わって隣の席のαは大して仲良くもないのに図々しくもキキに話しかけてくる。
「キキが食事に来るなんて珍しいよね。俺も一回話して見たかったんだよね」
「あんまりこういう場所得意じゃなくて」
「でもあれでしょ、今日はαがいっぱいだから来たんでしょ?キキくらいなら俺、いいなって思うけど」
αと話すことの何が嫌かというとこういうところだった。自分は優れていると思っているから他人を簡単に品評する。それがなんともカンに触る。誰しもそれくらい無意識的には行っているだろう、しかしαは相手の好意に関係なく無遠慮にそれがさも当然のように言ってくるのだ。若い時に培った処世術でなんとかそのαをかわそうとするが、お酒も入ってきて徐々にあたりが強くなってきた。αはプライドが高く他人の前で恥などかきたくない、怒らせるとどうなるかわからないのでキキは慎重にならざるをえなかった。
するとその状況を知ってか知らずか、相模が会話に割って入ってきた。
「キキちゃんと食べてる?これ美味しいよ」
そういって相模が料理を取り分けキキに差し出す。αが他人に奉仕するのは珍しかった。
「ありがとうございます」
キキはこれ幸いと笑顔で相模にお礼を言う。
(これで食べている間は隣の嫌な奴と喋らなくてすむ)
相模はすぐにほかの子達との会話に戻るかと思えば続けて声をかけてきた。
「キキと一緒にご飯食べれて俺嬉しいな。
キキは好きな食べ物何?俺はね~…」
自然な流れで会話を始める相模。こういう気が回せるなんて少しαっぽくないなと思いながらキキは相模の質問に答えた。
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