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第6話

あらかた食事を終え、相模が明日も仕事が早いということで場がお開きになる。 俺が誘ったからと相模はキキからはお金を受け取らず、ほかのモデル達からは参加費だけを徴収して残りを全額負担していた。庶民じみているというかマメというか。『α』という視点から見ればその行動は消してスマートではない。 「相模さん今日は驕りじゃないんだ」 「でも俺らのこと対等に扱ってくれてるってことじゃない?変に奢られて次からいい顔されてもさ」 Ωの子達が話す声が聞こえた。昔から変わらないなと思うが、αが払って然るべきのような風潮があった。そもそもの年収も違うので、パートナーを思えば自ずとそうなっては来るのだが、キキはあまりΩだがらと特別扱いされるのはあまり好きではなかった。Ωの感じ方もそれぞれで、財布として見てる子は前者のようになるし、人として見ている子は後者のようになる。 いずれにせよキキは今日1日でだいぶ相模に対する印象が変わった気がした。 「どうしたの?いいことあった?」 軒先で相模に尋ねられ自分がいつの間にか笑っていたことに気づいた。久しぶりに他人で笑った気がする。 「相模さん真面目だなって思って」 キキが素直に思ったことを白状すると、少し間が空いてオーバー気味にそれを相模が否定する。 「うっそー!俺が真面目?ナイナイ!!」 どうやら彼にとって「真面目」はイメージに沿わなかったらしい。褒め言葉なのだからそこまで否定しなくてもいい気もするが、セルフマネジメントの一環なのだろう。何よりこの業界はイメージが大事だ。 「今日はその、ありがとうございました。おかげで楽しく食事できました」 「ありがとうって、なんか礼を言われるようなことしたかな。うーん、わかんないけど楽しんでくれてよかった!」 キキは先ほどあのαから助けてくれたことに対し礼を言ったが相模は気づいていないようだった。計算なのか天然なのか、相模はよくわからない男だとキキは思った。 「じゃあまた仕事で機会があればお会いしましょう」 「キキまたね〜!」 店の前で解散する。キキは比較的仲のいいΩの1人と駅まで帰ることにした。 ◇◇◇ 初めてキキと食事を囲んだ帰り道。 電車に揺られながらキキが言ったありがとうの意味を相模はやっと理解した。 (助け舟を出したつもりはなかったけど、キキは嫌がってたのかあの時) (もっと気難しい感じかと思ったけど素直に笑うし可愛いかったな) 相模もキキに対しての印象が少し変わっていた。Ω性以外なにもかも不詳のキキ。多分男だとは思うが、中性的で美しい容姿は女性と言われれば女性に見えてしまう。身長はそこそこあり、β並みの身長あった。顔のイメージからは「冷たそう」といった印象を受けたし、何度か話した感じでは最低限返事をしてくれるだけでΩの子では珍しく積極的にαすり寄ってこない様子だった。 今日初めて色々な話をしたが時折笑う顔や、別れ際の穏やかな表情を相模は可愛いと思った。もっと普段から笑えばいいのに、とも。 (しかしキキに真面目と言われるとは思わなかった。) 窓に映る自分の姿を見て、相模圭一という存在にため息を吐く。キキに言われたことを思い出す。 (俺に真面目は似合わないよ) 普通の人なら真面目と言われることは褒め言葉のかもしれない。しかし相模にとってその言葉は批判の一種でしかなかった。 もっと完璧に、相模圭一を演じなくてはいけない。それが相模の仕事だった。

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