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第7話
次にキキが相模と撮影で被った時、相模は真面目と言われたことを気にしているのか、払拭するかのようにまた手当たり次第にΩの子に絡んでいた。しかし、キキはあの日の真面目な相模の側面を見たため、なんとなく彼の「キャラ」なのだろうなと感じた。それが彼にとって何のメリットがあるのかはわからないが、素の彼ではないような気がする。
(売れっ子俳優も大変だなあ)
そう思いながらキキは撮影中の相模を見つめる。以前よりもモデル業も板につき、ページの反響もさらにすごいらしい。ほかの出版社の雑誌からもオファーの声が沢山かかっているようだった。本業の俳優業も上々で、今放送されているテレビドラマの視聴率は今期のドラマ中で群を抜いている。ドラマの宣伝のポスター、商品のCMや広告も町中いたるところに溢れていて、国民全てが相模のことを嫌でも「観ている」状態だった。
「なあキキ」
同じ脇にいたモデル仲間の先崎がキキに声をかける。先崎は先日食事会に参加したメンバーのΩの1人だった。
「あれから2人で相模さんとご飯またいった?」
「行ってないけど、それがどうかしたの」
「僕さ前から相模さんを遊びに誘ってるんだけど全然2人きりでは会ってくれなくて。みんなとご飯だったらまだ来てくれるんだけど」
「先崎は相模さんのこと狙ってるんだ」
キキが先崎にそういうと彼は否定しなかった。「脈なしなんじゃない?」と言うと、少し怒りながら先崎は「相模さんにはある噂があるんだ」と言った。どうせくだらない噂だろうと思いながらキキは先崎に先を促す。
「噂って?」
「相模さんが一回食事したΩとは、次から絶対二人きりで会わないっていう噂」
「なにそれ」
キキは思わず素直な感想を言ってしまった。近くに本人がいるのにもかかわらずこの手の噂はどうかと思うが、相模のあまりのクズっぷりに眉間にシワがよる。先崎はキキの表情を見てキキの感じたことを察したのか咄嗟に相模のフォローに回った。
「いやキキは思うクズみたいな男じゃなくて、相模さんはどの子に聞いても食事までで終わってるみたい。行く前はあっちから誘ってくるのに、どれだけ楽しい雰囲気だったとしてもそれっきりなんだって。Ωの間じゃ結構有名」
先崎は所謂その手の情報屋のようなポジションだった。先崎から発信される情報は真偽はどうあれ強い拡散力によってまた再度広められていく。先崎はそれを楽しんでいる節のある少し捻くれた人間のようだった。
「でもβの子とはその後も普通にご飯行くらしいんだけど、謎だよね~」
付き合うなら絶対僕たちΩの方が可愛いじゃんね、と言う先崎。確かに誰とも食事に行かないのであれば誘われた側が社交辞令に乗ってしまったということで説明がつくが-しかしあの執拗な誘いは社交辞令といってしまっていいのかは些か謎であるが-βとは行くと言うのだから、Ωのことを意図的に避けていると考えた方が順当であった。
「変な噂が立つのが嫌なんじゃない?αとΩって面白おかしく記事書かれちゃうし」
αがΩとの接触を嫌うと言うよりも、相模の立場でなぜ避けるのかを考えた上でキキは言った。相模のような国民的なスターであればイメージは大事だろう、とキキは思ったのだ。
「だったらそもそも食事に誘わなくない?
僕やほかの子たちが有る事無い事言う可能性だってあるでしょ。誘ってるとこ現場の人とか見てるだろうし」
先崎は頭が切れるので細かいところによく気がつく。そして悪知恵も働く食えない男だった。しかし確かに先崎も言うとりイメージが大事ならもっと、それこそ裏でも「真面目」に居る方が大事だろうとキキは思った。
「じゃあ単純にβが好きか、Ωが嫌いなんじゃないの」
キキにはそれくらいしか浮かばなかった。でもそれで言うと嫌いな奴を食事に誘うのか?という疑問がまた出てくるのだが。
「βのことなんて好きなαなんているの?αだったらΩ一択でしょ」
先崎のその一言にキキは胸がチクリとした。
_βのこと好きなαなんているの?
「それは人の好みだろ、バース性の問題じゃなくて。誰とは言わないけど、グイグイ来られるのが嫌なんじゃないの?業界のΩの子は一般の子に比べて気が強いから」
キキが投げやりにそう言うと先崎は面白くなさそうな顔をしていた。キキは自分でもなぜそんなに相模のことを庇うのかわからなかった。ただ単純にαと相模をほかのαと一括りにされるのが嫌だったのかもしれない。無自覚のうちに相模のことを他と区別していることにキキは気づいていなかった。
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