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第10話

◇◇◇ 目がさめると、キキは知らない部屋にいた。抑制剤がやっと正常に効いたのか意識はずっとクリーンだった。 目を回してみるが部屋の主はいない、記憶はおぼろげだったが家主の見当はついていた。 (どうせαの相模(あいつ)の家) しかしαの家と言う割に匂いは薄いし、むしろしないに等しい。仕事用の仮住まいにしても、だ。 (身体も特に違和感もスッキリした感じもしない) 服は脱がされてはいるが、最低限の楽な格好をさせられている、といった感じだ。流石にキキも初心ではないので、行為に及んだかどうかぐらいわかる。 (発情期(ヒート)のΩと一緒にいて、煽られないαなんているのか? フェロモンを感じ取る器官が鈍感なのか) 何にしろ既成事実がないことはありがたいことに変わりはなかった。これから先も仕事を共にするかもしれない相手だ。家主はカバンも一緒に連れ帰ってくれたようでキキの目につくところに置いていた。気遣いに感謝しながら、スマホを取り出しマネージャーへ連絡を入れる。 『仕事中ごめん。 発情期がきて、動けない。迎えに来て』 すぐに既読がつく。『どこですか?』と返事が来て手が止まる。現在地を送ろうにも住所がわからない。どうしようと思っていると寝室の戸が開いた。 「起きたのか?」 家主が中へ入ってくる。やはりキキを連れ帰ったのは相模だった。 「相模」 「風邪か? すごく昨日は顔が赤かったけど…もう大丈夫そうだな」 相模は落ち着いた様子のキキを見て安堵した表情を見せた。その顔は本当にキキを心配している顔で、キキはどこまでもαらしくないと思った。自分の知っているαは、こんなにも優しくない。 「…ありがとう。助かった。」 「ずっと寝てるからびっくりした。 キキの家がわからなかったし、荷物勝手に触って良かったのかわからなかったからマネージャーさんに連絡も取れなくて。とりあえず俺の家に連れてきたけど」 相模はスポーツ飲料のペットボトルを差し出してきた。軽く会釈して受け取り口をつける。 「もう大丈夫だから帰るよ。 マネージャーに迎えに来てもらうから、悪いけど住所教えてもらってもいい、かな?」 状況が状況だったとはいえ、少し乱暴な口を聞いてしまったキキは今更どう言うふうに喋ればいいかが分からず、不自然な喋り方になる。相模はそれに対して特に気にした様子はなかった。 「それならもう少ししたら俺も仕事で出るから俺のマネージャーに家まで送って行ってもらう?」 「…流石に他事務所の人間だし。 起きてもう連絡しちゃったんだ、さっきから通知がすごくて」 キキの画面には『大丈夫ですか!?』『今どこですか!?』『不在着信(15)』の文字。マネージャの吉澤はすごく心配してるようだった。 「それに俺、あんまり人に住所とか知られたくないから…。教えて欲しいっていってて勝手なんだけど、ごめん」 キキが正直にそう言うと、相模はそれ以上何も言わなかった。 「…あんまり頑張り過ぎないようにな」 相模がそう言いながら住所を紙に書いて渡した。 (不思議な男…) マネージャに住所を送ると『すぐに車回します』と返信が来た。流石に部屋までは、と思いながらも念には念をとギリギリまで相模の部屋で待たせてもらう。もちろん相模とは距離をとって。『着きました』と連絡を受け取り相模に礼を言って部屋を出る。 帰り際、キキが玄関の戸を開けると、相模が追いかけてきた。引き止めて、キキのために買ったというゼリーや熱冷まし用のシートをご丁寧に渡してくれた。キキは再度お礼をいい部屋を後にした。 _その玄関での一部始終が写真にとられていて、後日週刊誌に「熱愛発覚」の見出しとともに載ったのだった。

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