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第11話
週刊誌が出てから業界ではキキと相模の話題で持ちきりだった。
「相模圭一の相手のキキって誰」
「キキを発情期中にお持ち帰りしたらしい」
「双方否定してるけど発情期中に一緒にいて何もないわけないじゃんね」
発情期中の文字やキキの名前などは週刊誌には載っていなかった。しかし、相模がキキを担いで移動している姿を大勢の人が目撃していたこともあり、週刊誌には書かれていないそれ以外のこともすぐに広まった。どんどんと違う情報も巻き込み膨らんでいく。
「キキが産婦人科に出入りしてるって」
「なにそれ子供できたの?早すぎ」
「バカ流石のΩでもそんなすぐに子供できないって」
憶測と侮蔑が入り混じった噂が囁かれていた。
◇◇◇
あの一件から相模は行く先々でキキとの関係について聞かれた。
(看病しただけなんだけど)
写真を撮られたのは流石に不味かったが、まさか撮影現場から追けられてたというのは驚きだった。
双方事務所に否定を申し入れ、事務所が火消し作業を行ったため世間ではワイドショー含め終息した。しかし、相変わらず現場ではその話題で持ちきりだった。
今日はキキと撮影場所が被る。あれから初めてキキと会うことになる相模はキキに聞きたいことがあった。
「キキ、ちょっと今いい?」
先に現場入りしていたキキに相模は話しかけた。話しかけると周囲がヒソヒソと話し始める。目立つのは避けたいが連絡先を知らないのでどうしようもない。
(熱愛報道が書かれているのに連絡先を知らないっていう事実が身の潔白を証明してるんだけど)
キキとは何回か仕事をしているが連絡先はお互い交換していない。先日、お礼としてキキのマネージャーから事務所に謝罪を兼ねた電話がかかってきたが。
「相模さんお久しぶりです」
「久しぶり、あれから体調はどう?」
相模がそういうとキキは深妙な面持ちになった。読んでいた雑誌を閉じ、相模の顔をみつめる。
(じっと見ないでほしい)
相模の願いなど無視してキキは視線を外さない。そしてキキが躊躇いながらも口を開いた。
「……風邪って本当に思ってますか?」
相模が正直にそうだと答えると、キキが大きなため息をついた。相模はなぜため息をつかれたのか分からず怪訝な顔をしてしまう。
「相模って今日この後時間ある?」
(え?タメ口?)
キキがこれまでの雰囲気と打って変わったくだけた言い方で相模に聞く。キキが急にタメ口になったことに驚きを隠せない相模。今の流れでなぜタメ口になるのか。
「今日はこの現場で最後だから、あるよ。
俺もキキに聞きたいことあったし」
「僕も相模に確認したいことがあって、できれば2人きりがいいんだけど」
「俺は全然構わないけど。
また誤解されるとダメだから、どこかミーティング室か休憩室借りようか」
「僕のマネージャーに手配させておく。マネージャーは部屋に入れないけど、念のため部屋の前に立たせておいていい?」
「じゃあそれで」
トントン拍子で話が進み、お互いの撮影が終わった後指定された休憩室で待ち合わせた。
先にキキは部屋にいるらしく、部屋の前にはキキのマネージャーの吉澤さんがいた。
「相模くんごめんなさいね、キキがわがまま言って」
吉澤とは電話越しだが話したことがあった。仕事前に相模を見つけると吉澤はいの一番に謝罪をしてきた。そんなわけで相模は吉澤とは知り合いになってしまった。
「全然。僕も話したいことがあったんで。
吉澤さんも部屋おさえてくれてありがとうございます」
「いいのよ。私が部屋の前に立っておくから!
心置きなく話し合って!」
部屋へ入ると、キキが凛とした姿で座っていた。髪の毛をセットされたままで、雰囲気が違ってまたそれも似合っていた。
「おまたせ」
相模はキキの向かいに腰掛ける。ちらっとキキを見ると目があった。
「おつかれさま」
慣れないキキのタメ口に背中がぞわりとする。さっきから何か胸騒ぎがするのは気のせいだろうか、と相模は思った。
「先に相模から話して。聞きたいことって何?」
主導権はキキだった。
「それが、その、俺らの熱愛報道なんだけど。
否定してるのに、なんでここまで周りが騒いでるのかわからなくて」
相模がそう言うと。キキが呆れたような顔をした。でも相模からすると、お互いに既成事実はないし、看病しかしていないのに本当に理由がわからないのだった。
「本当に、本当に、わからない?」
「うん」
次にキキが口にした言葉に相模は耳を疑った。
「もしかして、と思ったけど、やっぱり相模ってβだよね?」
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