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第14話

相模圭一、23歳、αの家系に生まれ彼自身もαだ。 『国民的彼氏』という言葉を欲しいままにし、あらゆる作品に出演しヒットを連発する。実力と人気とともに、今や彼の右に出る俳優はいない。 今夜はそんな相模圭一のその素顔に迫る。 Q1,あなたの職業は? 俳優です。 Q2,デビュー作は … 自宅のリビングのテレビから流れる自身のドキュメンタリーを見ながら、相模は髪の毛を無造作に乾かしていた。ドライヤーの音で次第に音は聞こえなくなっていく。自分がなんて答えたのか、相模にはどうでもよかった。 「なにが面白いんだろう」 (俺になんか、興味なんてないくせに) 仕事終わりは相模はいつもこんな気分にさせられていた。 求められているのはいつだってαの相模圭一だ。どの解答も、事務所が用意したものに少し自分の言葉を混ぜたに過ぎない。仕事への情熱も、語ればボロが出そうで、とても持論なんて呼べるものは話せなった記憶がある。 テレビの中の自分を追いながら、相模は最近あったことを思い出していた。 先日この業界にいて、初めて同業者にβだとバレた。Ωとは極力一緒に居ないよう心がけていたし、普段からαであるためにしていることはいくらでもあった。その中でなによりも大切なのは「匂い」だった。 朝起きて、顔を洗って、その次にαのフェロモンを模した香水を振る。首や手首、足首、髪の毛にも念入りに。そうしてαの香りを纏って、自分はやっと存在意義を得る。 帰ってきてシャワーを浴びた「裸」の自分は、一体どこに行けばいいのか。相模はいつも分からなかった。 バレるのが怖くて、一部の人間を除いては深い付き合いをしてこなかった。同業者で仲良くするのは出来るだけβ。仲のいいαもいるが、一緒にいたくても、長くいることはあまりない。 家族は両親と兄がαで俺だけがβだ。家族からは誰にもαでないことを気にされたことはないが、世間のニーズはどうやら違うらしい。世間が求める相模圭一は「α」の男だった。 憧れてた芸能界には入れたものの、後ろめたさから孤立していった。βだということは、いつのまにか相模の中に昏い影を落としていた。 でもそんな相模にも、最近は少しだけ楽しいことがあった。 相模の携帯の画面にメッセージが入る。 送り主はキキ。 『明日どうする?いけそう?』 相模はドライヤーの手をとめ、メッセージを入力する。 『いつものカフェで。1000待ち合わせ』 最近オフの日が合うと、キキと一緒に出かけるようになった。キキは相模にとって、香水を着けずに出かける、唯一の相手。お互い顔が割れているので多少制約があるものの、ありのままの自分で楽しむことができた。 髪の毛も流石に、というよりとっくに乾いていた。明日に備え相模は寝室に向かう。 (といってももう午前2時前) キキもさっきまで仕事だったんだろうか。久しぶりにできた友人との休日に胸を踊らせ、相模は眠りについた。

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