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第18話

「高校は中高一貫に通ってたから、卒業まではβで突き通した」 「周りの友達とか、誰にも言わなかったの?」 「なんで言うの…?結城のためのオメガなのに…」 その口ぶりに、相模はまだキキが結城に未練を持っているような気がした。いや、キキがというより真白が、という感なのかもしれない。相模はただ「ごめん」と言った。 「卒業と同時に上京した。誰も知らないところで、新しい自分で生きていきたくて、整形した。整形って言っても、二重にしただけなんだけどさ。」 「整形…」 「やっぱり、偽りもの(つく)って思う? でもね、みんなその偽者に可愛いだの綺麗だの言ってもてはやした。どんどん、真白の影は消えていって、今の僕みたいなのが生まれた」 キキは美しい。その美しさは作られたものだと知らされた。それでもなお、彼を綺麗だと思うのは、どうしてだろう。相模は疑問だった。 「俺は、キキが偽物だとは思わないよ」 「…でも、本当のことなんて僕には何もないんだ。人に言えないような爛れた生活をしてるときに、今の社長に拾ってもらって、キキって名前を貰った。今は自分なりに居場所を作って、いきてるつもり」 キキは弱々しくそう言った。爛れた生活とは、ぬるま湯で生活していた相模には想像もつかないが、Ωの子が1人で生きていくには仕方がないことなのかもしれない。 「社長の名誉のために言っておくけど、社長は可愛がってくれただけで厳しい人だったよ。 それにウリとかしてないから、そういう病気もないし安心して」 相模に心中を察したようにキキはいう。 「気になったこと聞いてもいい?」 「どうぞ」 「結局キキは二重人格ってこと…?俺イマイチわかんなくて」 「僕が今の主人というか、なんていうか。二重人格ではないと思うんだよね、精神科にはあれからいってないし」 「キキ…」 「まあ言えることは、今も真白は僕の中にいるし、お互いに記憶を共有してるけど、真白が表に出てくることはないかな。僕は真白(過去)が嫌いだし、真白は今を良くは思ってない。お互いが存在を否定しあってるんだよ」 「そっか…」と相模は言うしかなかった。相模が想像以上に暗い顔をしていることに気づいたキキは、そう言うつもりはなかったんだけどと、できるだけ明るい声で話し出した。 「僕とはしては楽しくしてるし、何も不自由は無いんだけど。相模になら話てもいい、いや相模なら聞いてくれると思って。ごめんね、重かったでしょ?」 キキが話し終えると、次の瞬間相模はただキキを抱きしめた。その熱量に、キキは胸の奥が久し振りに熱くなった気がした。 (こんな感覚、いつぶりだろう…。――真白もこんな気持ちだったの?) 「難しいね、バース性って。いつかありのままの、キキじゃない真白を愛してくれる人がいないかなってたまに考えるんだ」 相模に抱きしめられたまま、キキは言った。その言葉に嘘はなかった。相模がそれに対してなんて言うか、困らせたなと後悔した。しかし相模は想像の斜め上の答えを返した。 「キキは真白が大切なんだね、自分より」 思わずキキは目を見開いた。自分でも気づいていなかったその気持ちを、まさか相模に指摘されるとはキキは思っていなかった。 「良くも悪くも自分は真白の代弁者だからね。 今のを真白が言うなら『俺として受け入れてくれる人が欲しい』ってことだよ」 「真白の一人称は俺なのか、僕じゃなくて」 「そう、可愛い顔していきがってんの」 2人で顔を見合わせて笑う。一瞬で張り詰めていた空気が柔らかくなった。相模といると、キキはなんだか今までに自分ではないような気持ちにさせられる。今まで誰にも話したことがなかった秘密を、相模はただ受け入れてくれたのだった。 しばらく抱き合って、相模がキキの肩口に顔を乗せながらゆっくりと語り出した。 「でも俺もわかるよ、正直さ、最初バース性の変化は羨ましいなって思った。俺は今でもバース性で悩むし、思春期にはαになりたいって思ってたけどなれなかったから。」 相模もキキと一緒で、理由は違えどバース性がに縛られ生きている1人だ。だからこそ、キキのことを理解できるのかもしれないとキキは思った。 「そっか」 「でもキキにとってはいいことなんかひとつもなかったし、辛いこともあったんだろう。」 「そうだね」 「でもお互い他人には隠してること、俺は恋愛感情とかじゃなくて、そんなキキと今こうして腹割って話せて嬉しい」 相模はそう言った。それを聞いて、目頭が熱くなるのを感じたキキはそっと目を閉じた。 (誰にも『自分』は知られずに死んでいくのだと思っていた…――) 流れ落ちた涙が相模の手の甲に吸い込まれていく。その涙を見ながら、相模と溶け合った気がしてキキは倒錯的な気分になった。

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