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第20.5話【佐伯の独白】

卒業アルバムの中の真白と、この前会った真白――キキはたしかに顔は違う。 違うと言っても二重くらいで、印象やキャラが違うだけ。雰囲気は似通っている。 ネットの掲示板では、謎の多いキキの過去を暴こうと、どこからか流出した真白の卒業アルバムの写真がいくつかの個人情報とともに載せられていた。しかし、バース性が決定的に違うことで「別人」と判を押されていた。 どこにでも他人の事情を暴きたいと思う人種はいるもので、相模圭一との熱愛報道が出てから一層その動きは強くなっているようだった。 佐伯はキキにあの日再会するまで、相模圭一の熱愛報道などどうでもよかった。名前も顔も出ていない相手の「キキ」などもっとどうでもよかった。しかし、真白が今はキキとして生きているとわかった今、取り憑かれたようにキキのことを部下に調べさせていた。だが、見事にキキは真白の痕跡を消していた。誰にも見つからないように、誰からも脅かされないように――。 ◇◇◇ 実家から運んできた、数少ないものの一つである卒業アルバムを開きながら、目当ての人物に目を留める。 『高橋真白』 彼について思いつく限りのことを列挙していく。 裕福な家庭に生まれ、両親に可愛がられて育ったこと。 頭も悪くなく、運動ができて、優しい彼はみんなから好かれていること。 中性的な容姿に、可愛らしい声。 花のような甘い匂い。 大きな瞳に桜色の唇。――その瞳に見つめられるだけで心が浮き立ったこと。 そして最後に自分が彼を好きだったこと。 なぜそれが最後なのか。 それは俺に『運命の番』という存在がいたからだろう。 αにとって、『運命の番』とはとても大切な存在だ。Ω以上にその気持ちは強い。 運命の番とはα性が判明した少し後に出会った。一つ下の学年のΩの男。 運命の番からはそれはそれはいい匂いがした。 それは真白より、いい匂いだった。 本当は真白からは、真白がΩだとわかる前から甘くいい匂いがした。 実は、俺は元からαだったらしい。俺のバース性は誤診断の部類で、真白のようにバース性が変化したのではないのだ。αとは本当に忌々しい性だ、なぜならその誤診断は仕組まれていたものだった。まあそれは成人してから知ったのだったが。まあそれは今差し控えることにしよう。 しかし当時はβ同士だからと、お互い惹かれ合いながら何もなかった。だから、自分も、αだとわかり、真白もΩだとわかった時は運命だと愚かにも思ったのだ。 いい匂いは運命だから感じるのだと思ったが、それ以上に「いい匂い」がする人物に出会ってしまったのだった。 今でもその『運命の番』のことを好きなのかはわからない。愛はあるはずなのだ、彼に対して。しかし、真白のといる時のように満たされたことはなかったような気がする。 ある時、共通の友人から真白と疎遠になったことを諌められた。「αになったからとβの真白を捨てるのはどうか」と。 真白はどうやら俺以外にΩ性になったことは教えていないみたいだった。 他人には俺が真白を捨てたように見えたらしい。実際は真白の方がいつのまにか俺の前から消えてしまっていただけなのに。 βの友人たちは『運命』がわからない。 第一、βだから好きとか嫌いとか、そういう話ではないのに。 ――真白を捨ててたわけではない。愛してもいた。ただそれ以上に運命の番が愛おしかったのだ。 真白と育んだ、プラトニックというのだろうか、愛欲ではない日々は消えてしまった。 その代わりに、運命の番を得た人生は色付き、俺は最高の「幸せ」を手に入れたのだ。 だけどなぜだろう。 『どうして噛んでやらなかったんだ』 あの相模の声が離れない。 噛めばよかったのだろうか、真白よりも最愛のΩをとることがわかっていたのに。 「どうして、離れないんだ…」 ――一年前、運命の番が他界した。

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