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第24話
(愛しのΩ様はどうした!
俺より大事なΩがいるだろう!)
久しぶりに会う結城に真白は嫌悪を隠せなかった。キキを通して再会はしているが、実際に会うとなんとも言えない怒りが湧き立つ。そしてそれだけではなく、結城に対する未練や嫉妬も。
「帰って伴侶になんていうつもりなんだ。
匂いでわかるんだぞ、どうして大切にしてあげない!」
打って変わったキキの強い態度に、結城も何か異変を感じたようだった。
「真白…?」
「久しぶり、結城。俺のこと、覚えてる?」
「覚えてるも何も、こうして真白と話してるじゃないか。まさかとは思うが、…キキは真白の別人格なのか」
結城は察しがいいようで、真実は若干違うが、いい説明も思いつかないため「そうだ」と答える。結城は戸惑っている様子だった。それまで目の前にいる人物が、同じ顔をしたいわば他人だったのだ。そして、人は変わらず中身だけが変わる。なんとも奇妙な光景だった。
「それで、運命の番様はどうしたんだよ。
指輪もしたまんまで、別れてないんだろ」
結城は指輪をしたままだった。真白がそう指摘すると、結城は少し躊躇いがちに口を開いた。
「…去年彼は死んだんだ。」
(死んだ…?)
その言葉を聞いて、惨めさと悔しさでいっぱいになって一度止まっていた涙がまた出てきた。自分を手軽なオメガだとでも思っているのか、と言いたかった。最愛の人が亡くなり、都合よく自分と再会する。
「だから俺を抱いたって言うの?俺が傷つかないと思ったの!!?」
目にいっぱいの涙を溜めながら真白は結城を睨みつける。心のどこかでまだ結城を求めている自分が見透かされているような気がして、それがたまらなく真白には悔しかった。
「真白、お前を傷つけたいわけじゃない。ずっと、何年も、お前のことが頭から離れない。
…もう会えないと思った。もうどこにもいかないでほしい」
結城は真白の手をとり自身の額にあてがう。祈るように、そう言った。なんて身勝手な言い分だろう、真白は思った。たしかに姿を消したのは、自分かもしれない。しかし自分よりも結城は運命の番を選んだのだ。
「俺のこと噛んでくれなかったのは、
結城、お前じゃないか」
ベットから身を起こし、背中を向けて淵に座る。行為中必死にキキが隠した頸を結城に晒した。誰にも噛ませなかった、噛んでもらえなかった頸を。
(噛んで欲しいと思ったのは、お前ただ一人だけなのに)
「…それは」
長い襟足に隠されていた綺麗なままの頸を見て、結城はなんと言っていいかわからない様子だった。噛んで欲しいと言ったこともなければ、真白は結城に好きだと言葉にしたことはない。それで実はそうだったのよ、というのが罪だというのならばそうかもしれない。何も言わない結城にしびれを切らし、真白は言い捨てた。
「『お前からはいい匂いがしない』って昔俺に言ったよな。それがお前の答えだよ。
今日はした?いい匂い。」
昔に言われたことを当てこすりのように言う。結城とて馬鹿ではないので、自分の発言に心当たりはあったようだ。「真白」と言われて反射的に叫ぶ。
「やめろよ!俺の名前なんて呼ぶな!」
真白はもう飽き飽きとしてベットを出た。
(発情期でもなんでもない。
意識もはっきりしているし身体も動く)
こんな場所早く離れた方がいいに決まっている。床に散乱する服をかき集めて真白は素早く着替える。結城はベットで上体を起こしたままの状態で引き止めには来なかった。
(結局Ωの自分を抱きたかっただけなんだろ?)
そんな考えしか出てこなくて真白は遣る瀬無い気持ちになった。身なりを整えてホテル代なんて知ったこっちゃないと何も出さず帰り支度をする。途中ちらりと横目で結城に視線を飛ばしたが、ずっと考え事をしているようで、結城は真白を見てはいなかった。真白が部屋を出る際にやっと結城が口を開いた。漏れ聞こえた言葉は蠱惑的で、真白の心を揺さぶるには十分だった。
「真白、お前は昔からいい匂いだったよ」
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