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第25話
真白のは自宅に戻りシャワーを浴びようと服を脱いだ。鏡を確認すると跡は残っていなかった。久しぶりに自分が身体を支配する感覚に真白は思わず笑みがこぼれた。徐々に自分が消えていったとはいえ、意識はキキと共有している。表に出てこないだけで、消失したわけではなかった。自分たちは意識の中で意見を交わすことは直接ない。記憶は共有されても感情までは共有できなかった。
「キキ、もし俺がまだ結城が好きだって言えば、どうなる?」
鏡ごしにキキに問う。それが無駄だとわかっていても、言わずには言われなかった。本当はいつでも表に出ることはできるのだが、そこまで自分の人生に対して真白は執着がなかった。なぜかと言うと、結城がいないからなのだが。
(そろそろ戻ろうか、俺にはお前の仕事はできない)
真白は早々と意識の波にのまれていった。変わってキキの意識が覚醒する。
「…好き勝手して」
言いたいだけいって去っていった真白にキキはイラついていた。時刻は午前2時を回っている。明日も朝から撮影なのに、まっすぐ帰ればいいものの真白は久しぶりの外を楽しむようにふらついていたのだった。特に羽目を外してるわけではなかったが、キキは行動を制御できないので勝手な行動は控えて欲しかった。
真白も気にしてた通り一応身体に跡が付いていないのは幸いだった。長いこと裸でいたからかキキはくしゃみをした。
「身体温めてから寝よう…」
久しぶりに臀部に違和感を感じながら、キキは結城とのことを無かったことにするようにシャワーを浴びた。風呂上がりに携帯を確認すると相模からメッセージが入っていた。
『大丈夫?』
とてもじゃないが返信する気にはなれなくて、相模の心配を見ないふりした。
朝を迎え、何事もなかったように現場へ出た。
相模と顔を合わせるのがキキはなんとなく気まずかった。
「キキ、昨日メールみた?」
相模がキキを見つけるなり話しかけてくる。キキは咄嗟に嘘をついた。
「ちょっと急用で、どうかしたの?」
キキは相模が、キキと佐伯が一緒に出ていったことを知っていることは知らない。そうとは知らずに、キキはそれを知られたくなくて誤魔化した。相模は少し冷めた目でキキを見ていた。
「そう」
相模はそう言って、今日も撮影頑張ろうねと言って何処かへ行ってしまった。これ幸いとキキは周囲に視線を巡らせる。どうやら今日は結城は来てはいないようだった。
(よかった…)
佐伯がいないことに安堵していたのに、佐伯は撮影が終わるとキキを迎えに来た。
「真白、帰ろう」
自分にしか聞こえない距離でそう言われる。拒むこともできる。でも、拒めなかった。
キキの視界の端に相模が映った。相模は何か言いたげな顔をしていたが声をかけてくる様子はなかった。
仕事と佐伯の自宅を往復する。そんな日々が一連の企画が終わるまで続いた。
体だけを繋げて、心なんて最初からなくて。
昔の思い出も、自分とは違う人の思い出なんじゃないだろうかとか思うようになって。
終いには自分がキキなのか真白なのか区別もつかなくなってしまった。
夜眠るとき佐伯に「好きだよ真白」と言われて眠るのがたまらなく苦しかった。
やがて仕事も終わり、キキは佐伯の家で事実上囲われる形になった。もっとも仕事がなくなったので、キキではなく次第に真白が表に出てくることが多くなっていった。
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