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第21話
キキのもとに新しい仕事の話が舞い込んできた。といってもまた相模とのセットで。企業とのタイアップでは商品の売り上げを左右するため、商業イメージを壊さないように仕事をしている。今回は特に、相模が元からやっている仕事にキキが一時参加する形なので迷惑はかけられない。キキは妙に胸騒ぎがするのはそのせいだろうと思った。
どこか緊張した面持ちで、スタジオに入ると相模の姿が見える。心なしかその姿に安堵した。
(…なんで今安心したの!?、この前からなんか変だ…僕)
相模が自分の秘密を知っている唯一の人であるからか、あの日から相模が自分の中で形を変えたような気がする。あれからも相変わらずオフがあれば出かける中だが、相模を見るとドキドキするようになった。キキはそれに気づかないふりをしてやり過ごす。
「キキ!」
キキに気づいた相模が手を振る。吸い寄せられるように側へ寄ると「緊張してる?」と頬を撫でられた。スタッフもみんながいる中で、その空間だけ甘い空気が漂う。
「…別にしてない」
キキは自分でも顔が熱くなるのを感じた。それを悟られたくなくて、相模の手から逃れる。顔をそらして衣装さんの元へと急いだ。らしくないキキを相模は「珍しく照れてる」と揶揄った。相模の天然タラシは何も今に始まった事ではないのだが、意識し始めると胸が波立って落ち着かなかった。
衣装チェックや機材、立ち位置確認などの細かな確認が終わり、おしゃべりもほどほどに撮影が始まる。今回は国内大手メーカーと海外のデザイン会社がタイアップで行う商品のイメージモデルを務めることになった。
コンセプトは「uni」。イメージは相模とキキが混じり合うのではなく、一つになる、もともと一緒だったような、そういったイメージらしい。
衣装も部屋のセットも全てが純白な空間の中に、血の通った二人だけが妙に妖艶で、誰もがその空気にのまれていた。向き合って見つめ合ったり、背中を合わせて遠くを見たり、カメラを睨みつけたかと思えば笑って見せたり。そこには二人にしか作り出せない作品があった。
「お疲れー!今日の撮影は一旦終わり」
現場を仕切っている偉い人の声で撮影は終わった。大型の仕事なので連日この撮影は続く予定だった。海外の会社ともやり取りをし、感想を聞きながら進めるようだ。
1日がかりの撮影が終わり、キキがマネージャーの吉澤の迎えを待っているとスタジオの入り口が騒ついた。そこに目を向けると、輪の中心にいたのは、結城だった。
(どうして!!?)
キキはそう顔に貼り付ける。キキの疑問に答えるかのようにスタッフがコソコソと話し始めた。
「あの人が今回の会社の次期社長だろ?」
「いかにもαの男って感じだな。」
キキは結城がこの仕事に関わっていただなんて夢にも思わなかった。キキは、結城の家系が実業家であった事は知っていた。しかし実家は分家筋で長男ではあったが、会社は継げないと言っていた気がする。話によると次期社長というのだから、何か事情が変わったのだろうか。全く予想していなかった事態にキキは狼狽える。どうすることもできず、ただその場にいるしかない。視線を彷徨わせていた結城がキキを捉えた。キキを見るなり結城は周りの人が話しかけてくるのを片手で制し、キキも元へ向かってくる。
(もう逃げられない)
キキは本能でそう感じた。逃げなければと思うのに、再会した時と同じように動かない。魂が惹かれ合うのか、痛いくらいに胸が鳴り出す。まるで自分の身体が自分のものではないような感覚に陥る。やがて、結城がキキの目の前に立った。
「真白、話がある。ついてこい」
結城は座っているキキに顔を近づけて、そう耳元で囁かれた。
『真白』
その言葉に、キキはこの身体がそもそも自分のものではないことに気づかされる。結城は真白に会いに来たのだった。周囲に助けてくれそうな人を探すが、今に限って相模の姿は見当たらない。一人ではどうにもできず、キキはただ言いなりになるしかなかった。
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