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第27話
あれから1ヶ月が過ぎ、キキは完全に相模の前から姿を消してしまった。仕事も被らず直接会うことはできなかった。仕方なく相模が最新号のキキが専属モデルつとめる雑誌を見ると、写真が載っていたので仕事は一応は続けているみたいだ。
相模は大体のキキの居場所の検討はついていた。住所こそわからないものの。佐伯とキキの一件は最初業界で噂が立っていたが、何者かが手を回したのかそのあとは誰も何も言わなくなった。自分との報道の時とは違い、誰もキキのことについて触れない。
キキだけでなく、佐伯から相模への接触は当たり前だがなかった。以前したイメージキャラクターを務めた商品の反響が良かった、というお礼が広報担当から電話で事務所に来たくらいだった。
今日は新しく始まるドラマのキャストの顔合わせの回だった。
「相模久しぶりじゃん!よろしく」
待合室も兼ねた会議室で座っていると、クール系を売りにしている同期の俳優仲間・色川が話しかけてきた。今回の作品は色川とダブル主演を務める予定だった。時代もののパロディ作品で、脚本も有名な喜劇作家の人が考えていて面白い。1話の台本はすでにもらっていたが、読んだだけでも面白く、話題作筆頭作品になるだろうことは明白だった。
相模とのダブル主演の色川誠一は主に女性人気が高い。売りにしているのクール系は完全なキャラなので普段の色川はお調子者と言った言葉がよく似合う今時の若者だ。
「色川、よろしくな」
色川がとなりに腰掛けて相模に話しかける。色川は交流が主に交際関係の都合で広く、業界の噂話に何処と無く詳しい。言いふらしたりはしないのだが、聞けば大概「知ってる」と返される。
「最近お前キキと仲良くやってるみたいじゃん。お前ら付き合ってんの??」
どうやら色川の脳内では相変わらずキキと相模が仲良くしていたらしい。キキとの恋愛報道が流れたのはもう随分前になる。それに加えて、お互い忙しいし時間感覚がずれるのはわかるが、キキと最後に仕事をしたのはもう1ヶ月も前だ。
「いや、ふつうに友達。1ヶ月会ってないよ」
相模のどこか煮え切らない態度に、色川も何か思うところがあるのかさらに聞いてくる。
「そんなの俺らの仕事じゃ1ヶ月が会えないとか普通じゃんか。物によっては年単位でも拘束されたりするんだし」
「そうだけど、キキは今付き合ってるやついるし…」
言ってからしまった、と相模は思う。しかし後悔しても遅い。キキのプライベート情報、しかも恋人関係なんて言ってもよかったんだろうかと相模は不安になる。
(色川は口の軽いやつじゃないけど、しまったな…)
当の色川は見当が外れたことを残念がっているだけで恋人が誰なのかはどうでも良い様子だった。色川とは仲がいいがなかなか腹心が読めない男でもある。ドライで飄々としていると思えば演劇に関しては人一倍熱く、後輩の面倒見も良い。同期とはいっても、色川は25歳で相模の2つ年上だった。
「そうなんだ。まあ全然俺はキキに興味ないけど。お前とはいい感じの表情で撮ってるからそうなのかなって。違うのか、残念」
残念そうな顔はこれといってしていない色川に、相模は若干不機嫌になる。確かにキキとのツーショット写真は回を重ねるごとに反響が大きくなっている。周りからはキキの表情が良くなり、相模もまた違った印象の顔になっていると良く相模は言われていた。SNS上ではキキに対して嫉妬の声が上がるほど、その出来栄えは良いものだった。
ぶっきらぼうに相模は色川に尋ねる。恋愛ごとに暇 がないのは色川の方だったからだ。
「お前こそどうなんだよ、」
「いや?俺は運命のオメガちゃんに出会うまで
その辺の可愛い子くて尚且つ好きな子と適当に付き合いたい。…と言いたいところだけど最近変なのに追いかけられてて」
「変なのって?」
「いやこっちの話…」
いつもなんでも話してくる色川には珍しく内容を伏せている。少ししょぼくれているようにも見えた。そういえば最近はあまり遊びの誘いが来ないような気がした。しかし相模はさしてその内容に興味がなかったので、色川が言いたくないのならと深入りはしなかった。
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