35 / 41
第33話
相模のもとに、マンションの管理人から連絡が入った。キキと名乗る男性が、ずっとロビーにいたため保護している、と。そしてそのキキという男は相模の知り合いだと言っていると。
それを聞いて相模は急いで雨の中帰宅した。少し前に出た熱愛報道のせいで記者がまだ相模の身辺を張っていたが、そんなことはどうでもいいことだった。今、この瞬間を逃すと、もう二度とキキに会えない気がしたのだった。
道中、管理人には自分の部屋にキキを通すよういい、出ないようにロビーの防犯カメラで見張っておいて欲しいと伝えた。管理人は何も聞かずただ「わかりました」と返事をした。
やっとの思いで家に着き、玄関の鍵を開けるとキキの靴が見えた。
(どうやら大人しく部屋に居たみたいだな…)
かれこれキキとは3ヶ月ぶりに会う。突然のキキの訪問に色々な意味で戸惑う。
「キキ?いるんだろう?相模だけど」
玄関から声をかけてみたものの、呼びかけにも応じない。とりあえず相模はしらみつぶしに部屋を見て回った。寝室に入ると、ベットでキキが寝ていた。
ひさしぶりに見たキキの姿に、相模は胸が苦しくなった。最後に会った時よりも痩せていて、その寝顔はとても苦しそうに見えた。首もとには以前はつけていなかった黒色の護身用の首輪がしてあった。
(首にはチョーカー…。番になったΩがチョーカーはしない。と言うことは佐伯とはまだ番いじゃない?)
相模はキキのことが気になって仕方がない。
(好きな男のところにいたんだろ、なんでキキ、こんなにもボロボロなんだ?)
かつての美しさは見る影もなく、髪もツヤをなくし寂しさだけを纏っていた。蝶よ花よと愛でられたのではないのか。佐伯が約束を守れていないことだけは確かだった。
「キキ…?」
話をしようと、覗き込むようにして優しくキキに声をかける。起きないので、寝ているキキには悪いが肩を揺すった。するとキキがぼんやり目を開ける。深い緑色の瞳が、相模を捉えた。
「…相模、どうして泣いてるの?」
キキが口を開く。キキの言葉に自分が泣いていることに相模は気づいた。相模が止めようと思っても、涙は一向に止まらない。とめどなく溢れて、流れて行く。そしてキキもまた、涙をこぼしていた。
「もうキキに会えない気がして…」
涙をぬぐいながら相模はそう言った。それを聞いたキキは上体を起こし相模の胸にすがりつく。
「相模に会いたかったんだ」
キキがそう耳元で囁く。何度も会いたかったと繰り返すキキ。相模が抱きしめると、キキが応えるように背中に腕を回してきた。その時キキから佐伯 の匂いがした。
ともだちにシェアしよう!