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最終話

「佐伯さんのところにいたんじゃないの?」 はっきりさせないといけないことが自分たちにはある。そう思って、相模はできるだけ優しくキキに尋ねた。 するとキキは説教をされている子供のように上目遣いで答えた。 「…相模はなんでも知ってるんだね。僕はテレビで相模に恋人ができたのを今日知ったのに」 「色川から色々、それにキキが佐伯さんと出て行くの何回も見てたから」 「そっか僕の嘘なんて、最初から気づいてたんだ」 相模がうなづくと、キキは諦めきった顔をしていた。なぜキキがそんな顔をしているのか相模には分からなかった。 「僕のこと嫌いになったでしょ…。相模には新しい恋人がいるのに…急に来てごめんなさい」 キキはどうやら報道を鵜呑みにしている様子だった。相模は順を追ってその誤解を解いて行く。 「今俺と熱愛報道がでてる相手っていうのは、 色川のマネージャーで「色川の」恋人なの。ちょっと前に偶然街で居合わせたところを写真に撮られただけなんだ」 キキは相模がΩを避けている事を知っているため、まだ疑っている様子で相模のことを見つめる。 「色川のことで相談、じゃないけど色々話聞いてたら週刊誌に撮られちゃって。 やましいことは何もしてないし、否定もしたけど、あっちがΩ性だからどうしても周りが面白く書いちゃうんだよ」 「そっか…」 「それに俺、キキのこと嫌いになってなんかないよ」 キキはやっと納得してくれたようで、少し安堵した表情を見せた。相模はそれよりも、と肝心の本題を切り出す。もう悩むだけ、悩んだ。引き返すことはできない。 「それで?キキは?どうしてここに来たの?」 「どうしてって」 「なんで俺に会いたかったの?」 相模の直球な物言いにキキは戸惑っている様子だった。でも相模ももう、キキを手放すことはできなかった。それがどんな修羅場を飼っていると知っていても。キキが望むのなら、相模はその修羅の道へ自ら赴く覚悟はできていた。 「真白はまだ佐伯さんのことが好きなの?」 キキが首を振る。 「俺のこと、どう思ってるの?」 矢継ぎ早に佐賀無が尋ねると、キキはおずおずと答え始めた。 「相模の熱愛報道を見て、いてもいられなくなって。それまでは結城のことで頭いっぱいだったのに、相模が取られたと思って、自分が情けなくて」 取り留めのない言葉を紡ぐキキ。相模はただ優しく相打ちをする。 「結城の愛人と同然だったけど、僕は結城のこと全然好きじゃなくて、番になりたくなくて。でも、もう相模には好きになってもらえる資格がないかも知れない」 「うん」 「意識としては真白だったけど囲われてたのは事実だし、正直今自分はキキとして話してるつもりだけど、真白もまだ僕の中にいる。久し振りに表に出てきたから、まだ自分が本当にキキなのかもわからない。でも、こんな僕だけど、相模のことが好きなんだ」 ――相模のことが好き。 目に涙をいっぱいにためて、混乱しながらも告白してくれたキキ。キキの告白に答えるように、相模はキキを強く抱きしめてから上体を離した。向かい合って、目を見つめて、心から気持ちを伝える。 「俺もキキのこと、好きだよ」 「相模、僕…」 キキは驚いた顔をしていた。信じられないと言った表情で相模を見つめ返す。そんなキキに、相模がキキと会えない間に考えていたことを伝え始める。 「俺はβだから、自分がキキと付き合うなんてことを考えないようにしてた。キキが幸せなら、佐伯さんといるのが自然なのかもしれない。そう思った」 「そんなこと言わないで」 「キキが佐伯さんについていったって聞いて、 キキは違うって言うけど、やっぱり二人は運命の番だったんじゃないかなって思った。でももう一回キキに会えたら、俺は絶対キキに落ちる。引き返せないって思った。 ――だから今日キキが来てくれて、すごく嬉しい」 相模はキキの手を取って自身の胸に当てる。胸の鼓動がキキにも伝わるように。ドクドクと脈打つ鼓動の一つ一つがキキに愛を伝える。キキは相模の愛を全身の細胞で受け止める。細胞壁に浸透して、やがてそれはキキの心に届く。そしてまたキキの鼓動が重なり、お互いを媒介して気持ちは高まり合うのだった。 「キキが俺を選んでくれて嬉しい。俺はβでキキはΩで、運命の番じゃないけど、俺が絶対に誰よりもキキを幸せにするから。そばにいさせてほしいです」 真摯な相模の言葉にキキは涙ぐむ。実直で優しい相模。そんな相模がキキに愛を囁くのだ。拒むはずがなかった。自分たちに誠と呼べるものがなくても、この瞬間は魂がお互いを求め合う。たとえお互いが偽りの存在()であったとしても、その気持ちに嘘はなかった。 「末永くよろしくお願いします」 指で涙を払いながらキキは言った。その笑顔はとても愛らしく、キキとは違った、素の彼を初めて見たように相模は感じられた。 「よかった。でもベットの上で告白なんてなんかかっこつかないな。もっとちゃんとしたかったんだけど」 本当は相模は色々と計画を立てていた。密かに佐伯の住んでいるホテルを探しだし、どうやってキキを攫おうかとまで考えていたのだ。それか、キキがもし仕事に出ることがあるなら待ち伏せておこうとも。いずれにしろ、その後食事でもしながら話し合って、夜景の見えるバーラウンジでとも考えていた。ゲリラ的なキキの訪問によってこのような不恰好な告白になってしまい相模は残念がっているようだった。 「ううん。初めて好きな人に好きって言ってもらえて僕は嬉しい。こんな気分なんだ」 キキが耳まで真っ赤にして言う。初々しい態度に、また相模はキキに心を惹かれていく。 「そうだよ、とっても心地のいいものなんだよ」 「そっか、そうなんだ…」 ベットの上で似た者同士が身を寄せ合って佇む。影が重なり合って、日は落ちていった。 ――たとえxxxが嘘であっても(完)

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