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【後日談】愛を伝える日・下

キキは体調も回復し、関係各所に挨拶と謝罪を終えて、今は仕事復帰していた。相模とも無事恋人関係になり相模の家で半同棲の生活を送っていた。順風満帆な生活の中、またもや相模との熱愛報道がすっぱ抜かれてしまった。 見出しには『国民的彼氏の俳優・相模圭一に熱愛再発覚!お相手はカリスマモデルΩ・キキ』の文字。今回はご丁寧に名前まで掲載されてしまった。今度は顔のモザイクも取られ、相模と並んで顔写真が印刷されていた。 結ばれた二人は週刊誌に撮られる前に、お互いの事務所に交際を申し出ていた。キキの事務所の社長はキキに対しては放任主義で難なく許可をもらえたのだが、相模の事務所はそうとは行かなかった。特にマネージャーの神崎がキキの素性がわからないことを理由にごねにごねまくった。素性は明かせないので身分証明を社長にしてもらい、なんとか婚姻を前提に付き合うことで許可してもらった。 以前の熱愛報道は双方否定していたが、今回は正式な交際発表を2人は出す予定だった。 しかし相模は悩んでいた。自分は世間に嘘をついている。バース性は特にタブーだった。 セールスの戦略とはいえ、いい顔をされるものではないのは確かだった。 (βだと告白すべきだ) そう思うが、それ以上につきまとうコンプライアンスや社会的制裁が相模には怖かった。相模はまだ当分の間、芸能活動は今後続けていくつもりなのだ。 「ケイ、ずっと怖い顔してるけどどうしたの?」 キキが相模の顔を覗き込む。いつのまにかとなりに腰掛けていたようだ。キキが相模が手に持っている週刊誌に視線を落とす。 「その記事?」 「…うん」 「ケイが嫌なら、別に無理に発表することないよ。交際について僕は否定されてもちゃんと割り切るつもり。それがお互い仕事だから」 キキはどうやら相模が険しい顔をしている理由を勘違いしているようだった。 (キキは優しい。愛しい、俺のキキ…) 「いや交際を発表するのを渋っているわけじゃない、俺のバース性がさ」 その一言でキキは察したようだった。キキは相模に優しい声で語りかける。キキは相模の秘密を知っている唯一の人だ。 「…そのケイの生真面目なとこ好きだけどさ、 別に見せる部分を限ることは悪いことじゃないよ」 「キキ…」 「ケイは多分僕とのことを、ファンや同業者に全てを受け止めて、祝福してほしいのかもしれないけど…。別にだからって全員が祝ってくれるわけじゃないよ。それに僕はそんなこと望んでない」 キキは淡々とそういう。相模はそのキキの言葉で無自覚だった考えに気づく――全てを、『相模圭一』ではなく『俺』という存在を受け入れて欲しいという傲慢な考えを。 キキは何もかもを見透かしたように、微笑む。彼の笑顔で、次第にそれが最善なような気がしてくる。相模はもう、キキなしではとてもこの先をこの世界で生きていくことはできない気がした。 「僕はケイを愛してる」 キキだけがこの世界で『俺』を溶かしていく。甘やかな蜜のような詭弁(エゴ)によって、はじめて相模は生かされていることを知ったのだった。 ―― 愛を伝える日(完)

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