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第3話

自在鉤に吊した鍋の中身がクツクツと煮えていた。 生きるための糧が、そこにあった。 男は言いつけ通り、家の物を使ったのだろう。 生きる為に。 そっと布団から抜け出して、襖を開ける。 縁側に出て雪を眺める。 「雪が好きなのか」 背後から、声を 「…さぁ」 男は隣に座って、碗を差し出す。 さて、どうしようか。 腹は減って無い、と言うか。 食べたいと言う気が起こらない。 「…んっ」 がっと口に無理やり粥を匙でねじ込まれる。 こくんと喉が鳴った。 「やれ、僕の言う事を全く聞かない体だこと」 「喉を通るなら食いたいんだろ」 話はする。 お互い名乗りはしない。2人しかいない。 支障は無い。 相変わらずコンコンと雪が降る。 「1日中眠ってた」 「そう…」 食べたい寝たいそんな事を考えれる頭ではなかった。 体が勝手にそれを成す。 死にたいわけでは無い。 生きたいと思わないだけだ。 男がサクサクと庭に出て、隅にある雪をそっと除ける。 「こっち」 なんだろうねぇ、と近づいて。それが 黄色い花だと気がついた。 「おやまぁ」 「雪に埋もれても、生きたかったんだろう」 「あんたの事みたいに?」 知らない男。 名も知らない男。 「お前は、空っぽなんだな」 「そう見えるやね?」 「雪に埋もれたい程」 そんな男に言い切られてクックっと笑い。 僕は黄色い花を、雪の中で懸命に咲いた花を。 手折った。

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