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「冴島 壮です。三年生で生徒会長をしています。本日は暑い中ありがとうございます」
少しだけ頭を下げ、笑顔を作る。
「……いやー、たまげたな……生徒会長がこんなに美形だなんてドラマの話だけかと思ってよ」
テレビ局の責任者の男が頭をかきながらそう言った。壮はいやいや、と少しだけ謙遜し、取材内容について話し出した。
容姿を褒められるのは慣れていた。平凡な両親の良いところを取って産まれてきた、とも言われていて、両親もその顔があれば何もしなくても上手いことやれば生きて行けるさ、と言うくらいだった。でも壮自身、顔はただの付属品と考えている。
「なら、はじめようか。生徒会長の冴島君と、女装コンテスト2位、3位の2人にも少しだけ話を聞くから、よろしくね」
はい、ここに並んでね、とTV局の人が撮影準備を始める。アナウンサーが壮のすぐ隣に立ち、よろしくねと声をかけた。
「はい、じゃあ5秒前ー」
四、三、二、一とカウントが進み、0になったところでアナウンサーが話し始めた。
すぐ終わる、30分くらいのこと。壮はそう考えて、にっこりと笑みを浮かべてアナウンサーの問いに答えていった。
「待たせた?宿題はやく終わったんだ」
取材終わりに少しだけ学園祭の準備をし、15時ごろ自宅へ帰ると伊織はもういなかった。17時、ゆかりで。と書いたメモ用紙が机の上にあり、そのメモ通り17時にゆかりの扉を開いたところ伊織は携帯をいじりながらテーブルに座っていた。
「あ、おつかれー!終わった後に母さんに呼び出されてちょっと家に帰ってたから全然待ってないよ」
にっこりと笑顔を浮かべて、伊織は2人の定番メニューを注文した。
「学園祭ってそんな準備いるんだねー、壮が入るなら入ろうかなーって思ったけど、入らなくて正解かも」
最近かまってくれないから寂しいけどーと口を尖らせる。
「今日はどっちかと言うと取材が8割で、全然学祭の準備はできなかったよ」
届いた烏龍茶を飲み、用意してあったのかすぐに届いたお好み焼きの生地を混ぜて焼く用意をしていく。
「え?取材?取材受けたの?」
伊織がキョトンとした顔で聞いてきた。
「あれ?言ってなかったっけ?今日テレビの取材であした放送されるんだって。あの女装のやつ」
「えぇ!!聞いてない!それに壮出たの?」
てっきりいいなあ、くらいのノリが返ってくると思ったが、伊織の反応は少し違っていた。
「そんなビックリすること?出たけどちょっとだけだよ、学祭がんばりますーって言ったくらい」
伊織は取り乱したことに気づいたのか、烏龍茶を喉に流し込んで、ドン!とテーブルに置いた。ビールを飲んだサラリーマンのようで、想像もしてなかった反応に壮はすこしビックリしてしまう。
「……俺も出たかった!」
「……ああ、そうですか……」
やっと予想していた返事が返ってきた。
「壮だけずるいよー!俺もテレビ出てモテたかったー」
伊織は決してモテない外見をしている訳ではなかった。夏休み前の黒髪のツーブロックは清潔感があったし、パーマを当てている今も少し遊んでそうな外見だが、美形には違いなかった。ただ、モテたいが口癖なのに女の子と一線引いた付き合いをしてる、と合コンを開いた男子がぼやいていた。長年一緒にいるからか今更好きな女の子や恋愛事について話したこともないし、照れ臭くて話す気にもなれなかった。
「今でも充分だろ、何をそんなに」
「壮が近くに居ると、みんな壮の方行っちゃうんだもん!伊織くんは彼女いる?へー、じゃあさっき一緒にいた子は?かっこいいから気になってるんだけどー、までがセットなんだもん」
「なにそれ、初耳なんだけど」
眉をしかめてしまう。それをみた伊織がいや!と続けた
「そんな子こっちから願い下げ!壮の顔だけがいいみたいじゃん」
「……声大きいよ」
何か照れ臭くて、伊織に注意する。
伊織はゆかりに居ることを思い出したのか、カウンターの向こうに居る店主に少し頭を下げる。
「ほら、いつも文句言うんだから今日は伊織がひっくり返せよ」
コテを渡すと、伊織はわざとらしく腕まくりして、見てろよー!と言う。
自信満々にお好み焼きの裏にコテを突っ込み、勢いよくひっくり返す。
「やっぱり俺の方がうまい。伊織は力入れすぎなんだよ」
勢いが良すぎたのか、少し形が崩れたお好み焼きをみて笑ってしまう。くるたび交互にお好み焼きを返しているが一向にお互い上手くなりそうにない。
「いいんだよ、食べれたら。口に入れば一緒!」
失敗するたびに聞く伊織の言葉を聞いて、また笑みが溢れてしまった。
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