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 今回は前回の騒ぎとは比にならないのかもしれない。壮がそう思ったのは放送翌日に帰ろうと校門を一目みたときだった。 「ほら、だから言っただろ」  教室から窓の外を見る壮の背中から伊織が声をかける。肩に腕を回して密着してくる。 「どうすんの、壮ちゃん」  壮ちゃん、だなんて昔の呼び名で呼んでくる伊織に何か策があるのか、と顔をみるとニヤッと笑窪を見せて笑った。 「あしたの昼飯奢りね」  その言葉にうなずくと、伊織は頭をポンポンと叩いて、20分後に裏門ねと言って教室を出て行った。  教室からひとり、ひとりと生徒が出て行って、残りは壮ひとりになっていた。 校門前の人混みはすこしは減ったものの、まだ数十人は待っていた。  そろそろ裏門に行くか、と待ってる間に開いていた小説を閉じて、教室を後にする。 「ねぇねぇ、駅ってどっち?」  裏門へ行くと人混みもなく、ただの静かな住宅街が広がっていた。正門以外はあまり使われない裏門は、昨日の放送をみて、今日のこの状況に同情してくれた学年主任の先生が鍵を開けてくれた。  裏門のすぐ隣で立っていると、サングラスにフードをかぶった長身の男が話しかけてきた。怪しい格好の男だ。 「携帯持ってないんですか」  少し距離をとり、ごく当たり前の疑問を投げかける。男はサングラス越しに足元から頭のてっぺんまで見てくる。男として壮は低くもなく、どちらかと言えば少し高いくらいなのだが、目の前の男はそれよりももうすこし高かった。 「あー、携帯ね、携帯……」  わざとらしくその手があったかあ、と男はポケットを探し始める。ジーンズの後ろにあったのか、おっ、あったあった、と携帯を取り出す。  それと共にピンクのハンカチが宙を舞った。  反射的に壮はそのハンカチに手を伸ばし、取ってしまう。 「いやー、申し訳ない」  男は左手を差し出してくる。壮は右手で取ったハンカチをそのまま男に差し出した。 「いや、悪いなー。本当に」  男はハンカチに手を伸ばすと、壮の手ごとぎゅっと握りしめてきた。逃がさない、というかのようにぎゅっと握られ、痛みで壮は眉をしかめる 「なんか変な痕あるんだね」  はやく離せよ、と手を引っ張っても男は離す様子もなく、話しかけてきた。  壮の右手薬指の付け根には生まれた時から変なアザがあった。痛みもなく、何の害もないので気にしてなかったが、こう見知らぬ男に手を掴まれ言われるのはすこし気が悪い。 「生まれつきです、離してください」 「生まれつき、ねー……、あ、ハンカチありがとうな少年」  するっとハンカチを壮の手から取って、男は歩き出した。駅とは逆方向に足を進めて行く姿に壮は声をかけそうになるが、路肩に止められていた白いレクサスに乗り込んで走り出して行った。 「え、意味がわからない」  駅がどうのこうの言ってなかったっけ?壮はぽかんとした顔でレクサスの後ろ姿を見送った。 「何つう顔?熱さでおかしくなった?」  入れ違いで伊織がバイクに乗ってきた。 「いや、いま変な男が」  そう言うと伊織は眉をしかめて、ヘルメットを壮の頭にぽこっと被せた。 「お前はそろそろ危機感って言うのを待ちなさい」  ヘルメットをコンコンと拳で軽く叩かれる。  汗だくで制服のズボンのままの伊織をみると、急いで家までバイクを取りに帰ってくれたのがわかる。 「はい、はやく乗ってください。2ケツあんまり慣れてないからちゃんと捕まっててね」  伊織はバイクに跨り、切っていたエンジンをかける。壮は急いで後ろに跨り、グラブバーともう片手で伊織の腰を持つ。  ブォォオン、とエンジンをふかし、進んでいく。  伊織の匂いが風と共に壮に当たった。  

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