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 変な男事件から数日。  SNSはあまり衰えをしらない様子で、放課後になると正門前に他校の生徒が立っているのが見られた。学校側も少し責任を感じているのか、伊織がバイクで送っている件を黙認してくれ、裏口の鍵も何も言わず開けてくれるようになった。  SNSで拡散されたのは、壮の女装姿とテレビでの姿、あと二位三位の女装姿とテレビの姿だった。正門前にはそれぞれのファンらしき人混みがいるみたいだった。 「冴島くん、すごい人気だねー」  今日も変わらず制服をぴしっと来た加賀が話しかけてきた。いまは放課後、生徒会室で学園祭の話をしているところだった。加賀は窓から見える壮目当ての人混みを見ながらそう言った。  男子校だからか、SNSで人気が出た二位三位のふたりは放課後になるとスキップする勢いで正門へいくらしく、この時間まで残っているのは壮目当ての人混みらしい。 「冴島くんはあまり女の子に興味ないの?」  生徒会の他のメンバーが先生に呼び出され、壮と加賀だけになっているからか、加賀はそんな質問を投げかけてきた。 「いやそういう訳じゃないけど、気軽に付き合うのも申し訳ない気がするし」  今までに何度も問われてきた言葉に、言い慣れた言葉で返す。半分本当で半分嘘の言葉。  男子校特有なのか、同性同士で付き合ってる生徒は何組か知っていた。壮は別に偏見もなければ、しいて男を好きになる、って思ったこともなかった。恋愛ってどういう物なのか、とただ本当に疑問だった。  興味はあるけど、恋愛がどういうものなのかがわからない。そう正直にそういって、合コンに連れて行かれ、携帯の番号をばら撒かれ、悲惨な思いをした過去があるため、こういう一線をひいた返答をすることにしていた。 「ビックニュースーー!!!!」  生徒会室の扉がバァァンと開いた。生徒会の中でこんなうるさい人物はひとりだけ。会計の井原だ。 「井原くん!扉はしずかにあけるように!」  何度目になるかわからない注意を加賀は井原に言う。言われた本人は全く気にしていないようで、聞いてー!と近くに走ってきた。 「学祭の特別ゲスト変更だって!」 「え、こんな寸前で?」  思ってもなかった言葉だった。学園祭当日の特別ゲストに呼んだ芸能人は決まっていたはずでは?と机に積んでいた書類を見る。 「お笑い芸人に決まってたのに、どうして?」  加賀が井原にそういうと、井原はなんかさ、と続ける 「この前やってたうちのテレビを見てて、このSNSのバズりに気づいたその事務所の偉いさんが売り出し中の俳優を出したいって言い出してさ!最初に決まってた芸人と同じ事務所だから差し替えたいって!」 「でも売り出し中の俳優ってうちの舞台出て何するの?演劇でもするの?」  加賀の問いに、たしかに、と頭を傾げる。 「ところがどっこい!!!その俳優って言うのが黒澤琥太郎なんだよ!」 「……は?あの?」  加賀と共にハモってしまった。芸能人に疎い壮でも知ってる黒澤琥太郎。俳優デビューし、最近ではドラマの主題歌も歌っている芸能人だった。 「売り出し中もなにも、もう売れてるじゃん」 「まあそうなんだけど!!でもさっき職員室行ったら先生たちがそんな話してたから!!」 「ってことはちゃんと聞いた訳じゃないんだろ?」  そういうと井原は、そうだけど……と呟いた。 「ちゃんと先生から聞くまでは他言無用で、決まってないこと言いふらさないように、あと聞き耳を立てないように。」  いつもより少しキツめにいうと、井原はわかりやすくシュンと落ち込んだようだった。  壮でも知ってる有名人が、まさかただSNSで拡散されて注目を浴びている、って理由で学園祭にくるなんてある訳ないじゃないか。こっちの予定もあるのに。なんて思っていると、生徒会室の扉があいた。  その後戻ってきた生徒会のメンバーを交え止まっていた話の続きを始めた。

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