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黒澤琥太郎、二十三歳。身長は180センチで俳優、最近は歌手活動にも熱を入れている。その外見は彫りの深い外国人のような顔立ちで、笑うと少し幼くなりそれが人々の心を奪っている。恋愛スキャンダルもなし、芸能界で彼を悪く言う人はいない。近年まれに見る芸能人らしい芸能人だ。
黒澤の学園祭出演が決まって数日。壮は加賀が持ってきた雑誌を開いていた。数ヶ月前に発売されたその雑誌には今とは違う茶髪の黒澤が映っており、その写真の横には先ほどの文章がかかれていた。
「すごい人気なんだ」
昼休憩、生徒会室で加賀と伊織が壮と一緒にいた。各々お弁当だったり、パンを頬張っている。
壮が呟くと、伊織がまたSNSの画面を開き壮の目の前に差し出してくる。
「もうバレてる」
次の拡散ネタは黒澤琥太郎が学園祭に!?と言う見出しになったらしく、黒澤琥太郎と壮の女装写真、女装コンテスト2位の生徒の写真が貼り付けられていた。少しずつ収まってきた校門前の人混みもまた増えそうな話題だった。
「校長がさすがに反省したのか、今年度の学園祭の一般公開は在校生の招待客だけとかにするみたいだよ」
学園祭についての電話が鳴り止まないんだってさ、と加賀が続ける。
「第一こんなギリギリに芸人から超売れっこ芸能人に変える事自体普通じゃありえないし、不祥事起こしても代替えできるようなやつじゃないでしょ」
伊織はスマートフォンをいじりながらそう言う。学園祭は伊織にとっても一大イベントだったようで黒澤の話題で校内が持ちきりになってることが面白くないらしい。ここ数日の機嫌がすこぶる悪かった。
「女子校の可愛い女の子と友達になって、いっぱい遊ぶつもりだったのに」
本音らしき言葉が伊織から飛び出す。
「ほんと永妻くんってそればっかだよね」
はあ、とため息をついて加賀がぼそっと言う。そのため息を聞いて伊織も同じようにため息をつく。この生徒会室と校内の様子は全くといっても逆だった。
「あ、ごめん、今日いまからちょっと行かなきゃいけないんだった」
時計をみて、壮は立ち上がった。
「もうすぐ次の授業始まるけど」
持ってきていたかばんにお弁当箱を入れて、ネクタイを締め直す。携帯をかばんの中にいれて、としていると、授業を受ける雰囲気じゃないのを感じ取ったのか伊織はふてくされた顔のまま聞いてくる。
「いまから超売れっ子と打ち合わせ」
あえて名前は出さずにそういうと、誰かわかったのか伊織は唇を突き出し、誰がみてもふてくされてます、と態度で表してくる。
「愛しの冴島くんも売れっ子芸能人に持っていかれちゃうね」
にやっと悪い笑顔を浮かべて加賀が言う。この三人でいることは少なくない。ただ何故かこの加賀と伊織の二人は仲良いのか悪いのかいまいちわからない関係性だった。今も壮にとっては伊織は弄られてるのか?と少しだけ心配になる。
「15時には終わるから。今日はカレーだって。」
座ってる伊織の頭をポンポンと叩き、今朝母親から言われた事を伝える。カレーなら伊織くんも食べにくるかしら、と本人の返事を聞く前に大量に煮込み出していた。
「恋人同士みたいだね」
加賀のそんな言葉を背中でききながし、壮は生徒会室を後にした。
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