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完全極秘の打ち合わせは体育館で行われた。
他の生徒は授業中で、黒澤本人が当日歌う場所を見たい、と言ってきたらしい。
「当日はここでお願いします。なにか必要なものがあれば用意させますが」
本来ならば校長や教頭が案内するのだろうが、ここ数日のSNSへの対応や、急遽変えることになった学園祭の対応の件でバタバタしているらしく、生徒会長の壮に一任された。黒澤は以前とは違って有名なスポーツブランドの黒いジャージを上下合わせて来ていて、派手な金髪はジャージのフードとその下に被っている帽子で見えなくなっていて、大きなサングラスが顔の大半を隠していた。
「懐かしー。体育館とか久々だ」
黒澤は体育館に入ると壮の言葉に返事することもなく、スタスタと舞台の方へと歩いていく。黒澤のマネージャーらしきスーツの男は念のため、と体育館の入り口で誰も来ないように見張り役になっていた。
「学園祭当日はこの舞台上で45分の時間があります。黒澤さんの前は劇なので舞台上が片付くのに少しだけ時間かかるとおもいますが」
学園祭のプログラムを確認しながら黒澤に説明していく。黒澤の出番は昼前の11時25分から45分間だった。持ち曲一曲、新曲一曲とあとはトークらしい。
「その黒澤さんってやめない?聞き馴染みないから、なんか一線引かれてる気分なんだ」
舞台に上がり、黒澤が壮を見やる。
気分、じゃなくて一線引いているんですが、という本音を押し殺して目の伏せ口元に笑みを貼り付ける
「有名な方なので、馴れ馴れしくするのも違うかなと思いまして」
黒澤は舞台袖にあったパイプ椅子を持ってきて、舞台のど真ん中に座る。当日のイメージなのか、鼻歌で聞いたことのある曲を口ずさみながら体育館内を見回したり、椅子の場所を変えたりしている。
「せっかくの出会いなんだからさ、仲良くしようよ。壮くん。琥太郎でいいよ」
嫌ですけど、なんて言えるはずもなくあはは、と乾いた笑いをこぼして黒澤の元へ近づいていく。
「特に用意してもらうものはないかな。ただまだ話すことあるからさ、ちょっとついてきてもらっていい?学園祭当日の打ち合わせしよう。すぐ近くに知り合いのカフェあるからそこで」
「え、いや、まだ僕は……」
舞台から飛び降りた黒澤が壮の元へ行き、腕を引っ張って歩き出す。
「学校には伝えてるから。見つかったら厄介なんだよね」
口角をあげ、サングラスを少し下げて黒澤はにやっとわらっている。チャイムが鳴り響くまであと数十分。黒澤が生徒たちに見つかるとどうなるか、なんて壮でもわかりきっている。
なんで俺がこんな目に……。少し眉をしかめてしまったのが黒澤にばれたのか、眉の間をぐりぐりと人差し指で押される。
「今日は俺の打ち合わせで午後の授業は免除だよね」
逃げ口を塞がれた。壮は黒澤を睨み付ける、まで行かないが視線が不満を物語っていた。
「橋場ぁ、個室取っといて」
黒澤がそういうと、入り口で待機していたマネージャーが携帯電話を取り出し、どこかに電話をかけ始めた。数分話したのち、指でオッケーマークを作る。
「じゃ、いこうか」
壮の腕を引っ張って歩き出す
「わかりました、わかりましたから……鞄と靴だけ履き替えてきますんで」
そういうと、黒澤はにっこり笑って裏門で待ってるな、と言い残していった。
このまま帰ったらダメだろうか……なんて思うが、向こうの後ろ盾には校長や教頭までいる。そんなことできないな……と壮はカバンを取りに歩き出した。
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