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 ちゃんと見てから出てきたらよかった、とため息をつく。  いつも通り裏門へ行っても見当たらないバイク。?を浮かべながら、通知しか見ていなかった伊織のメッセージを開く。  金なくてATM寄らないといけないからちょっと待って。  泣いている絵文字と共に送られてきたメッセージに、まじか、とすぐにメッセージを開かなかった自分を恨めしく思う。なんとなくだが、今更生徒会室に戻る気にもならなくて、裏門の壁にすこしできた影に入る。  すこし立っているだけで、毛穴から汗が吹き出しているのを感じる。  携帯を開き、着ていたメッセージを開いていくと少し遠くからドサ、と物が落ちる音が聞こえた。  坂道の上で女の人が荷物を落としたらしく、坂の上からジュースがコロコロと転がってきた。坂の傾斜によってスピードが加速していくそのジュース缶をみて、壮は考える間もなく、それを取りに道路の真ん中へ飛び出した。  一方通行の車線は、車が通ることも少なく、車の心配はない。 「すみませんー!ありがとうございます」  長い髪をポニーテールにし、ショートパンツにウッドヒールの夏らしい服装の女性は、落としたらしいコンビニの袋を抱え込み、壮の元へ小走りで走ってきた。 「はい、これと。よかったら」  転がってきた缶コーヒーと、数日前にノートを買った時にもらって鞄に入れていたコンビニの袋を手渡す。 「えぇ!いいんですか」  女性はコンビニの袋を壮の手から貰うと、破れた袋から新しい袋へと移していく。  小柄で、高いヒールを履いても壮の身長には数十センチ程差がある女性に、壮はなんだか懐かしさを感じていた。 「迷惑かけてごめんなさい、ありがとうございます」  綺麗にメイクされた顔が笑顔になる。 「いえいえ、怪我がなくてよかったですね」  長く伸びた足にも怪我がなく、見た感じ転んだわけじゃなさそうで、壮も安心する。 「あ、あの……」  女性が顔を赤らめ、話し出そうとしたので壮が耳を傾けると、見慣れたバイクが女性の後ろから走ってくる。ブォォン、と低音の音が近づいてくる。 「壮?学校で待ってなかったの?」  すぐ隣でバイクを止め、ヘルメットを脱ぎ、壮をみて、隣の女性を下から上まで見る 「ああ、勘違いして。さっきのメッセージから下で待ってた」  そういうと、少しだけ伊織の眉が歪む。  歪んだのは一瞬で、すぐに笑顔に変わっていた。 「可愛い子となーにしてんのよ!俺に内緒で!」  跨っていたバイクから降りて、壮の肩に腕を回してくる。伊織からいつもの柔軟剤の香りとは別に汗の香りも混ざって香ってきた。 「いや、何も……ジュース拾っただけ」  いまだに手に持っていた缶コーヒーを見せると、伊織はそっかあ、とまたも不自然な程の笑顔を浮かべる。 「はやく帰るよ!俺も壮送ったらバイトなんだから!」  ヘルメットを被り、壮のヘルメットも早く付けろ、と言わんばかりに胸にぽんっと押し付けてくる。  ヘルメットを被ると、腕を引っ張られ、バイクを乗るように促された。 「じゃあ、もう会うこともないだろうけど。気をつけて」  そういった伊織の顔は見えなかったが、心なしかいつもより低い声だった気がする。

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