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小さな公園にあるのは2種類の遊具と自販機とベンチと外灯だけだった。黒澤は自販機でレモンティーと炭酸飲料を買い、ベンチに腰掛ける。壮もすぐ隣に腰掛けた。
「どっちがいい?」
両手に持ったジュースを壮に選ばせる。
壮はお風呂上がりということもあり、スッキリする炭酸飲料を選んだ。
「夏はやっぱり炭酸だよねー」
なんて言う黒澤はレモンティーのキャップを開けてごくごくと飲み出す。CMの様に勢いよく飲む姿に、壮も喉の渇きを感じ、プルタブを開けた。
「ごめんね、急に押しかけて」
壮が口をつけて飲んだのを確認してから、黒澤は話しだした。暗い公園の中はどちらかが話し出さないと静寂が辺りを占めている。
「なんかさ、壮くんと前話した時のこと思い出したら話したくなっちゃって」
はは、と照れ笑いをして言う。手は落ち着きのない様子でペットボトルのラベルをカリカリと弄っていた。
「……俺も、ちょっとだけ誰かと話したかったところです」
両手に握っている缶をじっと見る。話したかった相手が黒澤かと聞かれればすこしだけ嘘だが、ともかくだれかと話したかった。モヤモヤしていた伊織との事を誰かに相談したい、という気持ちがあった。
「何?相談事??」
黒澤は何を話したいと思っているか突いてくる。
そんなにわかりやすかったかな、なんて思いながら壮は苦笑してしまう。
「わかりますか」
「何か纏ってる空気が暗いから」
なんてね、と付け加え、黒澤はウインクをした。さすが芸能人とも言うべきか、そんな姿も様になっている。
「実は……友人を怒らせたみたいで」
目を瞑り、今日の伊織の事を思い出した。特別何か悪い事をしたという自覚は自分にはなかった。SNSで拡散されているといういまの状況、見知らずの女性と人通りの少ない裏門で2人というのは軽率だったのだろうか。確かに相手が刃物を持っている可能性も無きにしも非ず、伊織の言っている言葉が100%間違っているとも言えない。が、そこまで怒ることだろうか。
「自分は悪くないって思ってる顔だ」
隣の黒澤が長い足を組んでいて、それを支えに頬杖を付き壮の顔を覗き込んでいる。
「その通りで……」
苦笑し、はあ、とため息を溢す。
悪いところが分からないのに謝るのも何か違う気がする。ただ謝ればいい、と言う関係性じゃない。気持ちのこもっていない謝罪なんて、付き合いの長い伊織はすぐにわかるだろう。
「大事な親友なんだね」
黒澤がそう言う。友人と紹介したのに、わざわざ訂正してきたことに疑問を浮かべるが、確かに幼なじみでもあり、友人でもあり、親友でもある、と壮は思っていた。
「まあ、そうですね」
そう答えると、黒澤は壮の頭をガシガシと撫でる。
「大丈夫、壮くんがそんなに大事に思ってるなら、きっと仲直りできるさ」
にっこりと笑みを浮かべて言う。
なんの根拠もない、解決もしていない。なんて思っていると、黒澤は勢いよく立ち上がり、腕につけていた時計を見る。
「ごめんね、まだ仕事入ってて、すぐ行かなきゃいけないんだ」
「あ、そうなんですね……」
何しに来たのだろうなんて頭の片隅で思ってしまう。壮の悩み事も結局解決せず、でもほんのすこしだけ話せたことで重荷がほんとに、ほんの僅かだけ軽くなった気はする。
「あれ、そういえば話したいって」
黒澤も話したいことあったのでは、と思い、そう声を掛けると、黒澤はにっこりと笑って空を指さした。
「月が綺麗だねって言いたくてさ」
壮も空を見上げると、暗い空にまん丸の月が煌々と照っていた。
「それだけですか」
「それだけですよ」
わざと敬語で返してきて、黒澤はふふ、と笑い声をあげる。
「さ、いくら夏でも夜は冷えるから帰るよ」
なんて、言って歩き出す。
壮もよくわからない黒澤に首を傾げ、その後ろ姿を追った。
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