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 玄関先で黒澤と別れる。いまから仕事というのは本当だったのか、黒澤が車に乗ったあと、運転席のマネージャーが手帳を広げてこれからの予定を話していた。  車の後部座席に腰掛けている黒澤は窓を開けて、またね、と壮に一言。 「はい、黒澤さんも頑張りすぎない様に、これありがとうございました」  開けて少ししか飲んでいない缶見せてお礼を言う。  黒澤はにっこりと笑顔を浮かべ手を振る。  黒い車が闇に消えていくのを見送り壮は家に入った  学園祭が近づいてきた。少しずつ生徒のみんなも用意を始めていて、放課後生徒が校舎に残っている。  壮も例外ではなく、生徒会の仕事がない今日はクラスの出し物の手伝いをしていた。壮のクラスは10時から舞台で白雪姫を発表する。壮は生徒会と兼任の為、小道具の係りになっていて、同じクラスの伊織は、クラスの指示役になっていた。 「なんか喧嘩した?」  同じクラスで同じ小道具担当の鹿島が話しかけてきた。段ボールで鏡の土台を作ってる壮の隣で粘土をこねて毒りんごを作ろうとしている。 「……何が?」  鹿島の言葉が壮と伊織を指している事には気付いたが、気付いてないフリをして、作業を続ける。 「いや、みんな気付いてるけど」  ボソボソと話しかけてくる鹿島に、ちらりと伊織を見やる。  いつもはニコニコと笑顔で騒がしいほどの伊織が、すこし暗い雰囲気を醸し出している。コンタクトを入れることもせず眼鏡を掛けて、いつもセットしているパーマの黒髪も、今日は心なしか少し乱れている。 「向こうが勝手に怒ってるだけ」  謝ろうにも朝から避け続けられていて、昼休みも生徒会室に顔を出すこともなく今に至る。  怒っている、というよりは落ち込んでいるその姿に疑問が浮かぶが、昨日から今日に掛けての伊織はどこかおかしかった。 「早く仲直りしろよー。空気がわるい」  ベシベシ、と肩を叩かれる。  こっちだってさっさとこんな空気とおさらばしたいところだ、と壮はため息がこぼれた。

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