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「じゃあそろそろ終わりねー」
白雪姫役が疲れた!と言い出し、今日の学園祭準備は終わりを迎えた。
壮は作業を止めて、教室の後ろに作っていた小道具を置く。
「……壮、帰ろ」
使っていたカッターなどを片していると、隣から小さな声がかかる。久しぶりに聞く様な感覚に陥る、伊織の声だった。
「あ、あぁ」
一連の流れから今日はひとりで帰ることになるかな、なんて思っていたとこに伊織が話しかけてきて、すこしだけ吃ってしまった。
すぐ近くでいた鹿島が肘で小突いてくる。よかったな、なんて表情をしていて、なんだかそれが癪に触る。
「またな」
鞄を持ち、鹿島に声を掛けると、鹿島はひらひらと手を振る。
「今日バイクじゃないから」
いつもより少し早い歩幅に追いつくように歩く。
バイクじゃない、という言葉に、あ、そうなんだ、と返した。
他の生徒とたまにすれ違い、挨拶をされ、返して、と繰り返すだけで、伊織とまともに話すこともないまま裏門まできた。
「……なあ、伊織」
いつもより小さな声になった。でも届いたのか、伊織はなに、とぶっきらぼうに返事する。
「なにをそこまで怒ってるの」
ガッシャン、と裏門の閉じる音が聞こえて、壮はすこしだけ肩をすくめる。
「怒ってない。……怒ってないよ」
自身に言い聞かせるように、伊織は二回呟いた。
そして壮の顔を見て、すこしだけ憂わしげな表情を浮かべた。あまり見たことのない表情だ。
「心配なんだよ、壮が」
なんて伊織が言う。そして目を瞑って、眉を顰めている。
「壮はいつだって……」
いつだって、と言う伊織は胸につっかえている言葉を絞り出すかのように話す。
そんなに危ないことをしたのだろうか、壮には伊織がなぜこんなに思い詰めているのかもわからない。
「そんなに気に触る事をしたのか、俺は」
「……ううん、俺が過保護なだけだよ」
先ほどの声とは打って変わって、すこし明るい声でそう言う。眉は顰めたまま、笑顔を浮かべる。
「ごめんね、壮は壮なのにね」
なんて、当たり前のことを言い、伊織は歩き出した。いつもと同じスピードで歩き出す伊織に、壮も歩き出した。
「俺は、お前のこと親友だと思ってるよ」
そう告げた。だから何でも言って欲しい、だからこれからも喧嘩して、仲直りを繰り返していこう、と言う意味だ。
「うん……俺も、そう思ってるよ」
伊織は壮の顔をみると、笑みを見せた。
付き合いの長い壮にはわかる、幼い頃に何回かみた、言いたいことを押し殺してるときの顔だった。
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