21 / 47

19

「じゃあそろそろ終わりねー」  白雪姫役が疲れた!と言い出し、今日の学園祭準備は終わりを迎えた。  壮は作業を止めて、教室の後ろに作っていた小道具を置く。 「……壮、帰ろ」  使っていたカッターなどを片していると、隣から小さな声がかかる。久しぶりに聞く様な感覚に陥る、伊織の声だった。 「あ、あぁ」  一連の流れから今日はひとりで帰ることになるかな、なんて思っていたとこに伊織が話しかけてきて、すこしだけ吃ってしまった。  すぐ近くでいた鹿島が肘で小突いてくる。よかったな、なんて表情をしていて、なんだかそれが癪に触る。 「またな」  鞄を持ち、鹿島に声を掛けると、鹿島はひらひらと手を振る。 「今日バイクじゃないから」  いつもより少し早い歩幅に追いつくように歩く。  バイクじゃない、という言葉に、あ、そうなんだ、と返した。  他の生徒とたまにすれ違い、挨拶をされ、返して、と繰り返すだけで、伊織とまともに話すこともないまま裏門まできた。 「……なあ、伊織」  いつもより小さな声になった。でも届いたのか、伊織はなに、とぶっきらぼうに返事する。 「なにをそこまで怒ってるの」  ガッシャン、と裏門の閉じる音が聞こえて、壮はすこしだけ肩をすくめる。 「怒ってない。……怒ってないよ」  自身に言い聞かせるように、伊織は二回呟いた。  そして壮の顔を見て、すこしだけ憂わしげな表情を浮かべた。あまり見たことのない表情だ。 「心配なんだよ、壮が」  なんて伊織が言う。そして目を瞑って、眉を顰めている。 「壮はいつだって……」  いつだって、と言う伊織は胸につっかえている言葉を絞り出すかのように話す。  そんなに危ないことをしたのだろうか、壮には伊織がなぜこんなに思い詰めているのかもわからない。 「そんなに気に触る事をしたのか、俺は」 「……ううん、俺が過保護なだけだよ」  先ほどの声とは打って変わって、すこし明るい声でそう言う。眉は顰めたまま、笑顔を浮かべる。 「ごめんね、壮は壮なのにね」  なんて、当たり前のことを言い、伊織は歩き出した。いつもと同じスピードで歩き出す伊織に、壮も歩き出した。 「俺は、お前のこと親友だと思ってるよ」  そう告げた。だから何でも言って欲しい、だからこれからも喧嘩して、仲直りを繰り返していこう、と言う意味だ。 「うん……俺も、そう思ってるよ」  伊織は壮の顔をみると、笑みを見せた。  付き合いの長い壮にはわかる、幼い頃に何回かみた、言いたいことを押し殺してるときの顔だった。

ともだちにシェアしよう!