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学園祭がもう明後日に迫ってきていた。
「やあ」
なんて、声をかけてきて急に現れるのは黒澤だった。
いるわけのない黒澤が、生徒会室で、しかも自分の学校の制服を着ている。驚きで固まってしまうが、ハッと我に返り、辺りを見回して他の生徒がいないことを確認して扉を閉める。
「なにやってるんですか……」
この男にこの台詞をいうのは何回目だろうか。でも黒澤はあまり気にしていない様子で、椅子に腰掛けて手に持っている眼鏡を弄っている。
「んー、来ちゃった」
なんて軽い言葉で言う。
壮は鞄を机の上におき、黒澤と対面して座る。
「そんな軽いノリで入ってきていいと思ってるんですか」
「大丈夫だよ、変装してるし、生徒に見えるでしょ?」
黒澤は自身で掛けていた黒縁の眼鏡をくいっと上げる。一見黒澤だとわからない格好をしているのは確かだった。つい先日まで金髪だった髪も暗い色になっている。
「ちょっとこれ掛けて、ついてきてくれる?」
黒澤は疑問符は付けていたものの、壮に眼鏡をかけ、腕をひっぱり無理やり立たせた。
「ちょっと!!」
「ちょっとだけ、ね?」
黒澤は壮の腕を引っ張り、走り出す。
生徒会室の扉を開け、廊下を走り、階段を駆け上がる。歩幅が違うため壮は絡まりそうになる足を必死に動かした。
「さすがに疲れた……」
膝に手をつき、乱れている息を整える黒澤。
壮は屋上のフェンスに手をかけながら、黒澤を睨みつける。息も途切れ途切れで、悪態つく余裕もなかった。
「筋トレはしてるつもりなんだけどね」
黒澤は屋上の扉を閉め、壮の近くへ歩いてきて腰を下ろす。つぅーっと額に伝う汗を拭う姿も様になっている。
「こんなとこに連れてきて、何の用ですか」
息も継ぎ継ぎにそう伝える
「そろそろ本気で口説こうかなとか思って」
そういうとぐいっと腕を引かれ、黒澤の体に倒れ込んでしまった。決して軽くない体重が掛かったというのに、黒澤はよろけることもなく壮を抱きしめる。
黒澤の香水と、すこしだけ汗の混じった匂いに胸がとくんと高鳴る。
「ちょ……ちょっと……」
胸を押し返すが、それ以上の力で抱きしめられる。
「俺さ、壮くんといると懐かしい感じがするんだよね。でもそれ以上に悲しくなるんだよ」
とくん、とくん、とすこしだけ早い黒澤の鼓動と、話すたびに息が耳にかかることが壮の鼓動も早くする。
「壮くんといると少しずつ思い出すんだ、俺が俺じゃなかった頃の事を」
抱きしめられたまま、髪の毛をさらりと撫でられる
「壮くんも早く思い出して」
言われた言葉にズキン、と頭に衝撃が走る。それと共に胸がどくんどくん、と先ほどと比にならないほど高鳴る。
「ね、待ってるから」
ちゅっと、こめかみにキスを落とされる。
その音に壮は力を振り絞り黒澤の胸を押し返した。黒澤は後ろに倒れそうになるのを片手で身体を支え、壮を抱きしめていた腕を開放した。
壮は真っ赤であろう顔を腕で隠して踵を返す。扉へと歩いていく途中に後ろから黒澤に呼び止められ、一言言われる。
「本当に好きなんだ」
その言葉に何故だか壮は泣きたくなる気持ちを押し殺し、奥歯を食いしばり屋上を後にした。
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